第2章
使者
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 試験週間が終わると、梅雨に入る前に球技大会がある。

 グラウンドの都合上、この学校ではできないので、毎年市内にあるスポーツセンターまで出掛けて行って、競技を行う。

 学年ごとに日にちをずらして行い、クラス対抗となる。その為、それまでの間はどのクラスも練習に熱が入っていた。

 その練習風景をぼんやり眺めていた杳を、寛也と潤也は通りすがりに見つけた。

 成る程、離れて見ると良く分かる。あちこちで杳のことを観察している生徒のいることが。

「ああいうのが見えてくると、声をかけにくいよね」
「何言ってんだ」

 潤也の言葉に反発するように、寛也は杳に近づいていく。

 その気配に気づいて、杳が振り返った。

「よお、何やってんだ?」

 元気に声をかけると、杳はツンと顔を逸らす。

「別に」

 素っ気なかった。どうやら機嫌が悪いらしいと、すぐに気づく。ただ、杳の御機嫌ナナメは大した理由もないことが多いので、気にせず寛也は並んで立った。

 見ているのは、自分のクラスの練習だろうか。ソフトボールだった。

「お前、何に出るんだ? 球技大会」
「出ないよ」

 また、素っ気ない。

「は? 全員参加だろ?」
「出なくていいって。診断書、書いてもらったから」
「診断書って…」

 心配顔になる寛也を横目で見やって、杳はポツリと言う。

「だって、面倒だし」
「怠け者め」

 杳の答えに呆れて返す。

 その二人のやり取りを聞きながら、潤也は先日の翔の言葉を思い出していた。杳はもう余り生きられないと言った。自分達が巻き込んだ戦いで負った傷が元で。

「ふたりは何に出るの?」
「俺、ソフト」
「僕はバスケだよ」

 杳の問いに、それぞれ元気良く答える。


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