第1章
予兆
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「あの人、危険だから余り近づかないで」
翔は教室から離れると、そっと杳に言った。
「あの人って、委員長?」
「そ。何か嫌な感じがする」
「ふーん。それって、竜王としての勘?」
「えっ?」
翔の表情が変わった。
ギョッとした顔で足を止めるのを追い越してから、杳はくるりと振り返る。
「全部、思い出した」
「何で…?」
たった2日で。登校し始めてたった2日でどうしてなのか。
考えられるのは、あの人物だった。
「結崎寛也だね。あの人…」
「ヒロが翔くんの封印を解く力、あると思うの? もう、勝手に解けて、勝手に思い出したんだよ」
そんなことはないと言いかけて、思い止どまる。
その昔、父竜を封じる程の力を持っていたのは、誰でもない、綺羅だったのだと思い出して。
翔は大きくため息をついた。肩を落とす翔に、杳は続ける。
「それと、色々やってくれたみたいだね」
はっとする翔。
「変な呪いをかけてくれたみたいだし」
「いや、それ、呪いじゃなくて、幻術のひとつで…」
バシ―――ンッ…。
景気の良い平手の音が廊下に響いた。
通り過ぎていく他の生徒達が驚いて振り返った。
「今度余計な事をしたら、ただじゃおかないからな」
「ご、ごめんなさいっ」
もう、涙目だった。
翔はとっとと背を向ける杳を、慌てて追いかけ追いすがる。が、その手は杳に邪険に振り払われる。
何事かと注目を浴びているのに、それを気にしない杳と、気にする余裕のない翔。
それを人込みに紛れて眺めていた潤也は、軽く頭を押さえる。
「竜王も、杳だけには形無しだよね…」
ま、その方が今の姿らしくて良いのかも知れないが。小さく笑って、潤也は目立ちたくないと、身を引く。
後は寛也が何とかするだろうと、階段の下に見えた双子の片割れの顔を思いやって。
* * *