第1章
予兆
-4-
5/11
委員長はまだ、あの笑いを浮かべたままで。
「お前、今、付き合ってる奴、いるか?」
「は?」
「いねぇんだったら、俺と付き合わねぇ?」
どよめきと、悲鳴とが混じる中、唖然とする杳。平然と言ってのけた委員長を奇異なものでも見るように見やる。
「オレ、男だけど?」
「気にしねぇよ。お前みたいな美人、そうそういねぇし、それにジャジャ馬程乗りこなし甲斐があるだろ?」
パシーンッ。
教室中に響く平手打ちの音に、一斉に静まり返った。
一瞬何が起きたのか、クラス中が壇上の二人を見やった。
そこで睨んでいる杳と、打たれた頬をさすりながら、尚もニヤニヤ笑いの消えない委員長と。
「誰がジャジャ馬だよっ。あんたなんか、全然タイプじゃないっ」
言って、プイッとそっぽを向いて席に戻ろうとする。その腕を掴まれた。
「まだ何か…」
文句を言ってやろうと振り向いた杳に、委員長の唇が重なる。
しんっと静まり返っていた教室に、黄色い悲鳴とどよめきが沸き上がる。その声に我に返った杳は、とっさに相手を突き飛ばした。
見返すと、まだあの笑い。
杳は腕で唇をゴシゴシ擦る。
「あんた、サイテーだ」
言って、教室を出ようかと一瞬迷って、杳は思い止どまった。ずかずか大股で席に戻り、思いっきりふて腐れたまま椅子に座った。
「よし。じゃあ次。2番手、誰だったか?」
委員長は何事もなかったように進行を務める。
それを睨みつける杳に、隣席の男子生徒がヒソヒソ声で言ってきた。