第1章
予兆
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 委員長はまだ、あの笑いを浮かべたままで。

「お前、今、付き合ってる奴、いるか?」
「は?」
「いねぇんだったら、俺と付き合わねぇ?」

 どよめきと、悲鳴とが混じる中、唖然とする杳。平然と言ってのけた委員長を奇異なものでも見るように見やる。

「オレ、男だけど?」
「気にしねぇよ。お前みたいな美人、そうそういねぇし、それにジャジャ馬程乗りこなし甲斐があるだろ?」

 パシーンッ。

 教室中に響く平手打ちの音に、一斉に静まり返った。

 一瞬何が起きたのか、クラス中が壇上の二人を見やった。

 そこで睨んでいる杳と、打たれた頬をさすりながら、尚もニヤニヤ笑いの消えない委員長と。

「誰がジャジャ馬だよっ。あんたなんか、全然タイプじゃないっ」

 言って、プイッとそっぽを向いて席に戻ろうとする。その腕を掴まれた。

「まだ何か…」

 文句を言ってやろうと振り向いた杳に、委員長の唇が重なる。

 しんっと静まり返っていた教室に、黄色い悲鳴とどよめきが沸き上がる。その声に我に返った杳は、とっさに相手を突き飛ばした。

 見返すと、まだあの笑い。

 杳は腕で唇をゴシゴシ擦る。

「あんた、サイテーだ」

 言って、教室を出ようかと一瞬迷って、杳は思い止どまった。ずかずか大股で席に戻り、思いっきりふて腐れたまま椅子に座った。

「よし。じゃあ次。2番手、誰だったか?」

 委員長は何事もなかったように進行を務める。

 それを睨みつける杳に、隣席の男子生徒がヒソヒソ声で言ってきた。


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