第1章
予兆
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午後の授業は三線校舎の特別教室に別れて、各クラスでの授業となっている。
日にちによって場所が変わるので、毎週、時間割が配られていた。それを片手に、杳は午後の授業となっている予備室を探した。
「どこだ、これ…」
ふだん使わない教室は分かりにくい。何とか見つけだした時は、予鈴が鳴り終わっていた。
廊下に生徒は誰もいなくて、杳は恐る恐る後ろのドアを開けた。
途端、ざわついていた教室内が、一斉に、水を打ったように静まり返ってしまった。
「…え…」
さすがの杳も驚く。クラスの全員が、自分の方を見ていた。何だか異様な雰囲気を感じて、このまま帰ってしまおうととっさに思った程で。
せっかく一大決心をして来たと言うのにと、思いながらドアを閉めかけた時、近くの席に座っていた男子生徒が立ち上がった。
「教室、間違ってないよ。入って」
言って、閉められようとするドアを開く。他にも駆け寄ってくる生徒がいた。
「今朝、倒れたから心配してたんだ」
「もう大丈夫なの?」
「さあ、入って、入って。みんな、待ってたから」
杳は背を押されて、おっかなびっくりなままで、教室内に入った。
ちょっと失敗したかもと思った。この時間は、ロングホームルームだった。
「葵くんの席、ここだからね」
そう言って勧められた席は、出席番号一番の、一番隅っこではなく、何故か教室のど真ん中だった。
ちゃんと、自分のカバンも置かれていた。先程体育館へ取りに行ったら見当たらなくて、どこへ行ったものかと思っていたところだった。
「これで全員揃ったな」
その声に顔を上げると、今朝、杳に声をかけてきた男子生徒が立っていた。
何となく見覚えがあると思っていたら、委員長だったのだ。
「葵が出てくるの、みんな待ってたんだ」
「何で? オレなんて放っておけばいいじゃん」
「そう言うことを言う奴って、血祭りに上げられるんだぜ」
言って、委員長はにまにま笑った。
丁度鳴り始めた本鈴に、一斉に席に着く周囲をよそに、杳は憮然としたまま立ちつくす。その杳を置き去りに、委員長はさっさと壇上に上がる。