第1章
予兆
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「結崎くん…」

 杳の声に、振り向いて、慌てて駆け寄る。

「大丈夫か?」
「結崎くんこそ、ケガ…」

 背の怪我を刺して言う杳に、寛也はそう言えばと思い出し、背中の痛みが消えていることに気づいた。それどころか、潤也に封じられていた力が戻ってきていた。

 もう一度手のひらに力を込めて、炎球を作り出す。

「何で…?」

 どうやって封印が解けたのか。自分の手のひらを見つめていると、杳がじっと見ているのに気づいた。杳はこの力も恐れるのだろうか。

「ゴメン。俺が怖いか?」

 聞くと、杳は一瞬だけキョトンとして、それから小さく笑って言った。

「怖いわけないだろ、ばかヒロ」

 その言葉に、寛也は怒るよりも驚いた。

「杳…お前、まさか記憶が…」
「今ので戻ったみたい…だね」

 言いながら、左肩をさすっていた。痛みがあるのだろうか。

 が、そんなことに構っていられないくらいに寛也は嬉しくて、気づいたら杳を抱き締めていた。

「ちょ、ちょっとヒロ」

 慌てて抵抗する杳。

「男なんてまっぴらだって言ったじゃない。放せよっ」

 そんなことを言っただろうかと思った途端、頬を叩かれた。

 手が緩んだ隙に、杳は寛也の腕の中から抜け出してしまう。

「杳…でも俺とお前、すごく良い雰囲気だったと思うけど…?」
「そんな訳ないだろ」

 きっぱり言い切る杳に、寛也は唖然とする。

「オレが覚えてないことを良いことに、言い寄ってきて…結崎くん、サイテー」

 だってそれは…と言い訳しようとするが、杳はプイッとそっぽを向いてしまう。落ち込みかけて、ふと寛也は杳が逃げ出さないのに気づいた。

 もしかしてと、淡い期待を抱く。

 と同時に、身体が動いた。ふわりと、杳を背後から抱き締める。


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