第1章
予兆
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「杳…頼みがある。ジュンが…三線校舎の1階にジュンがいる。呼んで来てくれ」
一番格好悪い展開だった。が、このままでは自分はともかく、杳まで――。
「いやだ」
きっぱり言って、杳は寛也から目を逸らす。
寛也を支えていた手を放して、立ち上がった。ニヤニヤ笑っている化け物を睨みつける。
「お前がオレを狙う理由、これだろ?」
杳は胸の前で両手を握り締める。
その手をそっと開くと、そこに淡く光るものがあった。その光に寛也は目を見張る。
「勾玉――」
化け物の呟きが聞こえた。
「欲しければやるよ。その代わり、オレ達からは手を引いてもらう」
「ばか…やめ…ぐげっ」
起き上がって止めようとする寛也は、杳に無造作に踏み付けられた。邪魔をするなと、睨まれる。
近づいてくる化け物を、睨み据えたままの杳。が、ひどくおびえているのが伝わってきた。
守ると約束したのに、今の自分はなんて無力で不甲斐ないのか。
「くっそ…」
寛也は握り拳を床に叩きつける。背中から流れ出る血に、意識が遠のきそうになるのを堪えて、何とか立ち上がろうとする。
化け物の手が杳の手の中にある光に触れたその瞬間、淡く一面に光が舞った。
「ぐわっ」
弾け飛ぶ化け物。投げ飛ばされた玩具のように、壁に叩きつけられた。
「何が…?」
寛也は杳の足の下から這いずり出て、飛ばされた化け物を見やってから、杳の方を見やる。
杳の手の中に光るもの――それは、実体を持たないのに、やんわりと光を放っていた。あの化け物は勾玉と言ったが、とてもそんな形はしていない。
勾玉と言うよりも、むしろこれは――。
「杳…」
声をかけると、ゆっくり寛也の方を向いて、手を伸ばす。その手に触れた瞬間、寛也は身体が軽くなったような気がした。途端、杳の身体はそのまま倒れた。
「おいっ」