第1章
予兆
-3-
9/17
「僕も翔くんと大差ないか」
呟く声に寛也は少し首を傾げながらも、食い下がる。
「危なくなったら杳だけでも逃がすよ。お前、遠くで様子だけでも見ててくれたら…」
「調子いいなぁ、まったく…」
それも有りなのかも知れない。
どれくらいの距離を離れていれば敵が逃げ出さないものか。多分、杳が襲われたあの時間に自分のいた第三線校舎の特別教室と、体育用具室との直線距離なら、確実に大丈夫なのだろう。
だったら、体育館にいて授業を受けていたのでは駄目だろう。
「仕方ないな」
潤也はそう言って、ポケットの中をごそごそ探す。キーホルダーに付けている鈴くらいしか見つけられなかった。その鈴に、ぶつぶつと呪文をかける。
「何だ?」
「目くらましくらいにしかならないけどね。危険になったら、投げ付けてやるといいよ」
言って、それを寛也に手渡した。
「言っておくけど、ヒロには僕の封印を解く力はないんだから、敵を倒すなんて考えずに、危険だと思ったら逃げること。封じられたまま炎竜がこわっぱに破れたなんて、洒落にもならない」
「そうか?」
意味はよく分からないが、どうも情けないことらしかった。
「じゃ、いくよ」
時間もないしと、潤也は心の準備を整えなければならない寛也に、早速術をかけた。
不意をつかれた寛也は、あっさりと潤也の封印に取り込まれてしまった。
* * *