第1章
予兆
-3-
5/17
つと、杳は寛也の腕を擦り抜けるようにしてうずくまった。
「杳?」
左肩をきつく掴んでいた。
そこは、かつて翔が杳の記憶を封じると言った場所だった。寛也が焼いた腕の傷があった場所。寛也はそこに軽く触れただけなのに。
「お、おい、大丈夫か?」
が、杳は肩を押さえたまま、うつむく。その横顔は真っ青だった。
「…ヒロ…」
呟いて、杳がそのまま突っ伏すのを、辛うじて寛也が受け止めた。
「杳? おい、杳っ」
引っ繰り返してみるが、杳は意識を失ってぐったりしていた。その身を揺すぶろうとして、いつの間に近づいたのか、潤也に止められた。
潤也は杳が押さえていた腕を取って、半袖のシャツを少しめくる。そこに、うっすらと浮かぶ火傷の跡を見つけた。
「保健室へ。乱暴に扱わなようにね」
「え?」
「記憶が戻りかけてる。…翔くんには内緒だよ。さあ」
促されて、寛也は杳を抱き上げる。
ざわざわと、周囲のささやき声が聞こえた。先程のクラスメイトが近づいて来るのを、潤也が出てくれた。
「悪いな、ジュン」
寛也はそのまま足早に出口へ向かった。
* * *