第1章
予兆
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 つと、杳は寛也の腕を擦り抜けるようにしてうずくまった。

「杳?」

 左肩をきつく掴んでいた。

 そこは、かつて翔が杳の記憶を封じると言った場所だった。寛也が焼いた腕の傷があった場所。寛也はそこに軽く触れただけなのに。

「お、おい、大丈夫か?」

 が、杳は肩を押さえたまま、うつむく。その横顔は真っ青だった。

「…ヒロ…」

 呟いて、杳がそのまま突っ伏すのを、辛うじて寛也が受け止めた。

「杳? おい、杳っ」

 引っ繰り返してみるが、杳は意識を失ってぐったりしていた。その身を揺すぶろうとして、いつの間に近づいたのか、潤也に止められた。

 潤也は杳が押さえていた腕を取って、半袖のシャツを少しめくる。そこに、うっすらと浮かぶ火傷の跡を見つけた。

「保健室へ。乱暴に扱わなようにね」
「え?」
「記憶が戻りかけてる。…翔くんには内緒だよ。さあ」

 促されて、寛也は杳を抱き上げる。

 ざわざわと、周囲のささやき声が聞こえた。先程のクラスメイトが近づいて来るのを、潤也が出てくれた。

「悪いな、ジュン」

 寛也はそのまま足早に出口へ向かった。


   * * *



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