第1章
予兆
-3-

4/17


 唖然とする相手に、杳は背を向けて自分の確保していた席へ戻ろうとする。

 と、その前に立ちはだかる者がいた。いつの間に来たのか、寛也だった。

「お前なぁ」
「あんたには関係ない」

 その横を擦り抜ける杳の腕を、寛也がつかむ。

「そんな言い方、ねぇだろ? お前って、ホント、人の気持ち、分かんねぇ奴だな」

 その寛也の腕を思いっきり叩く。

「うるさいな。ちょっと助けてくれたからって、恩着せがましく言うな。もう、放っといて」
「放っとけねぇて言ってんだろ? あいつらだって、心配してんだ。あんな翔の力になんか負けてんじゃねぇよ」

 言ってしまって、寛也はしまったと思う。杳はすかさず不審そうに見てくる。

「何言ってんの?」
「いや、つまり…ここにいる奴はみんな同級生なんだし、怖がることねぇって…」
「何なの、それ。バカじゃない?」

 プイッとそっぽを向いて行こうとする杳。寛也はその正面に、尚もしつこく立ちはだかる。

「逃げるなよ」
「どいてよ、ばかヒロ」

 とっさに言った言葉に、杳は固まった。

 が、すぐに顔を背ける。その杳の肩を寛也が掴んだ。

「お前が怖がってるのは、お前自身の弱さなんかじゃ…」
「…う…」


<< 目次 >>