第1章
予兆
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「お前、昨日、体育の時、具合が悪くなったって聞いたけど、大丈夫か?」
「う…うん、大丈夫」
驚いた。ここ一カ月間休んでいたその前も、実のところ、殆ど登校していなかった。
翔の実家の不幸もあって、4月のクラス替え以来、数えるくらいしか来ていないし、元々、親しい友人を作る習慣はなかったので、こんな風に声をかけられたのは初めてだった。
杳の返事に、ホッとしたように顔をほころばせる。
「うちのクラス、むこうに固まって座ってるんだ。だから、みんなが…」
言って、彼はその方向を指さす。
見ると、体育館の反対側で一同にこちらを向いて、明らかに様子を伺っている一団があった。
「葵も来いよ。いや、女子がすげぇうるさくて…」
杳はそう言った同級生と、こっちを向いたままハラハラしている妙な一団を交互に見やってから、短く返した。
「…ごめん」
気持ちはありがたいと思うのだが、杳にはそうとしか返せなかった。
杳の言葉に相手は落胆の色を浮かべる。
「何でだ?」
一歩近づくのに、杳は一歩後ずさって、視線を逸らす。その様子に気づく相手。
「俺達のこと、嫌いか?」
「え?」
思ってもみなかったことを聞かれて、杳は顔を上げる。
「だってさ、まだ去年は学校に来てたのに、クラス替えしてから殆ど来なくなって。お前、目立つから誰かがいじめたんじゃねぇかって…」
「それはないよ」
きっぱり言い切る。黙っていじめられる自分ではない。されたら、3倍返しが信条だ。学校に来なかったのは、慣れるのに時間がかかった為と、忌引、1カ月は体調不良だ。他に理由はない。しかし、それを正直に言う気になれず、返した言葉。
「群れるの、嫌いなんだよ」
そう言うことを言っているから、いじめられていると誤解されるのだとは、杳自身気づいていなかった。