第1章
予兆
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「何やってんの、ヒロ?」

 自宅に戻り、制服を脱ぐ間もなくカバンだけを放り出して再び外へ出る寛也を、先に帰っていた潤也が不審そうに追ってきた。

 寛也はアパートの駐車場に停めている自転車のタイヤに空気を入れて、ブレーキを確かめて、軽く拭いて埃を払った。

「見て分かんねぇ? 愛車の整備」
「それは分かるけど…」

 潤也はチラリと、側でたたずむ杳に目を向ける。もうすっかり仲良くなったのだろうか。寛也は案外手が早いと呆れつつ。

「あいつを家まで送ってってやるんだ。詳しいことは帰ってから話す」
「詳しいことって…何かあったの?」
「ちょっとな。大将にも言っとかないとな」

 そう小声で言って、寛也は愛車の整備を終えた。

「でもヒロ、杳の家って荘内だよね? ひと山、越えるけど大丈夫なの?」
「…え?」

 失念していた寛也だった。




 日が暮れてライトを点けた自転車のペダルは重い。加えて後ろに人一人を乗せた上に坂道を昇った。

 半分昇ったところで、杳に一緒に歩いてくれと頼む羽目になった。自分の体力の無さに落ち込み、これからは部活も少しは顔を出そうと心に誓った。

 山道の下りは軽快だった。山道とは言っても、片方2車線を幅広に取った国道なので、二人乗りの自転車を飛ばしても危険を感じることはなかった。

 それよりも、バイクに乗り慣れている杳が、自転車は華奢で怖いと言ってしがみついてくるのが、心地よかった。

 結局、自転車を使っても杳の家まで1時間近くかかってしまった。

 竜体になればあっと言う間だと思うものの、そう言う訳には絶対にいかず、杳の家にたどり着いたのは7時をとうに回っていた。


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