第1章
予兆
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日差しが暑いので、日陰に場所を取った。
2クラス合同で男女に別れて授業をする体育は、週に2時間しかなかった。不足する時間はどこに振り分けるのだろうかと思いながら、杳はぼんやり授業を眺めていた。
最近、身体を動かすことがなかったから、少し鍛えてないと付いていけないだろうなと思いながら。
と、背後に異様な気を感じた。反射的に立ち上がって、振り返る。
そこに寛也の姿があった。
「びっくりした…おどかさないでよ」
杳はホッと胸をなでおろす。寛也はその手を掴んだ。
「ちょっと話しがある。来てくれ」
ひんやりとしたその手に、杳はいぶかしむ。が、言われるままについて行くことにした。
授業の方は、杳のことに気づいた様子もないことを確認して。
* * *
「結崎くん、どこまで行く気?」
今の時間、体育館は誰もいない。その裏にある体育用具室にも、人影は見当たらなかった。
杳は、さすがに入り口で寛也の手を払った。
「何の話? 人に聞かれたくないにしても、こんな人気のない所で…」
「いいから、入れよ」
寛也は杳の腕を取る。
触れられた瞬間、ゾクリとしたものが全身に走る気がして、杳はその手を振り払おうとする。が、相手の方がはるかに力が強く、引きずり込まれる。そして、奥へと突き飛ばされ、杳はよろめいて床にひざまずいた。
その間に、寛也は戸を閉め、鍵まで掛けた。
「ちょっと、どういうつものさ?」
怒って声をかけると、寛也は振り返る。
「仲が良さそうだったからこの姿を借りたんだが、簡単に引っ掛かるのだな、人間は」
言って、口元を吊り上げる。
「結崎くんじゃ…ない…?」
いぶかしがる杳に、一歩近づいてくる。
「俺だよ。何言ってんだ?」
杳は立ち上がり、後ずさる。何故だか分からないが、背筋がゾクゾクした。
これは偽物だ。分かっているのに、身体は逃げることができなかった。