第1章
予兆
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「えっ、あ…いや…」
慌てる寛也に、杳は笑って言う。
「と言う訳で、これで昼は一緒に食べたっ言うことでいいよね?」
「いや、俺、今の、昼メシじゃねぇし」
全然足りなかった。
「学食行こうぜ。な、付き合えよ」
「そんな義理はないよ。ほら、さっさと行けよ。5時間目、始まるよ」
言って杳は、ポンと寛也の背を押した。
触れた途端、何か大事なことを思い出せそうな気がした。
「どうした?」
わずかな様子の変化にも寛也は気づく。
――この人は一体…。
「ううん、何でもない」
そう答える声とダブって、遠くから寛也を呼ぶ声がした。
「ゆーうーざーきーっ」
聞き覚えのある声に寛也が振り返ると、体育館の向こうから駆けてくる生徒の姿が見えた。小早川だった。
「お前っ、昼休み、開けとけって言うから待ってたんだぞ。何やってんだ、こんな所で」
寛也の前まで来て汗を拭いながら、小早川はちらりと杳を見やった。途端、杳の様子が昼前のものに戻る。
寛也は内心でため息をつく。他の奴には、慣れないのだろうと分かった。