第1章
予兆
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「さて、そろそろいいかな」

 腕時計を見て寛也は立ち上がった。

「メシ、まだ残ってっかなぁ」

 呟く寛也を見上げて、杳は、まだ食べるのかと笑う。

「腹、減っただろ?」
「もういいよ。そこそこ満足してるし」
「はあ?」

 杳が食べたのは、おにぎり1個だけだった。それで高2男子が昼食に代えられる訳がないだろう。そう思う寛也は人の三倍は食べるのだが。

「もっと食えよ。第一、お前のクラス、次、体育だろ?」

 もうちゃんとチェック済みかと、杳は苦笑する。

「見学だよ」

 さらっと言って、続ける。

「オレ、今日が初登校なんだ。だから一応ね、一週間くらい様子を見ろって言われてる」
「今日…?」

 一体何日休んでいたのか。確かに、明らかに死にかけていて、普通なら助からないような大怪我だった。それを紗和の力で治癒させたのだ。あの時、傷は完治していたと聞いた。ただ、体力が戻らないので、数日間は休むだろうと思っていた。しかし、あれから2週間は経っていた。そんなに状態が悪かったのだろうか。

「これも、知ってるんだ?」

 杳は寛也を見る目をわずかに細める。サボっていた訳でもなく、体調が悪くて休んでいたのだと知っているのだ。誰にも話していない筈なのに。

「ホントはもう大丈夫なんだけどね」
「…ゴメン」

 思わず口をついて出た言葉に、杳はキョトンとする。

「何で結崎くんが謝るの?」


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