第1章
予兆
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「こっち来いよ。お茶もあるぜ」

 杳は呆れるやら、驚くやら。言われるままに、寛也の隣に腰を降ろした。

 じっとおにぎりを見つめたままの杳をよそに、寛也は既にそれを口に含んでいた。

「どーした? 食わねぇのか?」
「なんで…分かったの?」

 杳が寛也を見やる。

 うかがうような目は、ひどく動揺していた。その杳に、寛也は1個目のおにぎりを完食してから答える。

「そりゃ、企業秘密だから言えねぇな」

 冗談めかして言う言葉に、杳は不満なのか、そのままじっと見つめていた。

「食えよ。うまいぞ」

 寛也は更に2個目のビニールを破る。

「何でオレに構うのさ? 今まで見も知らなかったのに、それなのに、何で色々分かるの?」

 知識として知っているだけではなく、分かってくれている。そのことが伝わるのだ。

「何でって、そりゃ…」

 言いかけると、杳の真剣な目にぶつかる。

 深い深い色を宿した瞳に、寛也はもう嘘をつけないことを感じた。しかし、本当のことも言えなくて、選んだ言葉。

「気になるんだよ、お前のこと。すっげー気になって仕方ねぇから。だから放っておけねぇし…」

 側にいたいと思う。その最後の一言だけは飲み込んだ。

 守りたい。一番伝えたい言葉は、胸にしまいこんだ。

「それって…」
「へ、変な意味に取るなよ。その、同級生としてだな…うん、それ以上は、ない」

 まるで自分に言い聞かせるように言う寛也に、杳は吹き出した。

「いい格好しぃ」
「言ってろ」

 杳は笑いながら、ようやくおにぎりのビニールを破った。

「いただきます」

 言って、かぶりつく。

「うん、おいしい」

 杳の周りにあった空気の温度が、一気に変わった。そんな気がした。


   * * *



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