第1章
予兆
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6月を迎えたばかりの空はまだ梅雨を知らず、カラリと晴れ上がっていた。
全壊させた校舎1棟、半壊させた校舎1棟。1年生から3年生の教室全部だった。辛うじて残った特別教室棟と、食堂を含む学生会館、体育館、格技場、別棟になっていた図書館、それから3年生用にグラウンドの隅を埋めて作られたプレハブ教室。それが今のこの学校の学舎だった。
午前中、2年生は体育館を使って合同授業をし、午後は特別教室での選択科目か、体育をカリキュラムされていた。
残った建物をフルに使っての授業配分に、教師達の苦労がしのばれた。
寛也は、今日の午後は生物室で選択科目の地理、杳は体育だった。
「やっぱ、外もあちーな」
寛也は日差しに向いて伸びをする。
「で、何するの?」
杳はそっけなく聞く。
杳が付き合えと言われて連れ出されたのは、体育館と図書館の間の中庭だった。木々の間に池まであって、ちょっとした庭園ぽく見えなくもない。
「腹が減るだろ? だから、じゃーんっ」
寛也はおにぎりを取り出して、自慢そうに見せる。
「だったら先に食べてくればいいのに。っとに、バカ」
「バカバカ言うな」
言って寛也はベンチに腰掛ける。
「お前も食えよ。タラコとシャケ、どっちがいい?」
無邪気な問いに、杳はちょっと意地悪をしてみたくなった。
「どっちもいらない。オレ、エビマヨがいい」
と、寛也は一瞬言葉に詰まったようだったが、すぐにニッと笑う。
「そーくると思って、ちゃんと買っておいた。ほら、エビマヨ」
言って寛也は、ビニール袋の中から取り出した三角おにぎりを杳に放って寄越した。驚く杳は思わず取り損ねそうになって、慌てて掴む。
本当にエビマヨだった。