第1章
予兆
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3時間目4時間目と、さすがに逃げ出す素振りを見せない杳は、寛也に何を言っても無駄だと悟った様子だった。
それでも、昼休みに食堂へ誘うと、露骨に嫌がった。
「何で昼休みまで、あんたと一緒にいなきゃならないのさ?」
「そりゃ、午前中に隣り合わせた奴は、一緒にメシを食うもんだろ?」
「バカじゃない?」
にべもなく返して、杳はスッと寛也に背を向け、体育館を出て行こうとする。
慌てて追いかけ、腕を捕まえる寛也。
「なに?」
睨んでくる杳は、奇麗な顔をしているだけに、かなりきつい印象を与える。
「いや…じゃ、ノートのお礼ってことで…」
「あんたが貸してくれる訳じゃないだろ?」
「話をつけてやったのは俺だぜ」
「…」
まだ借りてもいないものを、何で引き合いに出すのかと思いながらも、杳はここでこれ以上揉めても目立つだけだと思った。既に周囲の注目を浴びているようだったので。
仕方なく、寛也の腕を振り払い様に言う。
「オレ、人がすいてから食堂に行くことにしてるから」
「そう言うと思ってたから、さっき、おにぎり買っといた」
「え…?」
寛也の切り返しに、驚く。
杳にしてみればひどく不思議だった。寛也が何故自分のことをこんなにも良く分かっているのか。ただ口裏を合わせているだけとも思えない。第一、そんなに器用にも見えないし。
何だか分からないが、それでも口で言う程に嫌な気持ちがしていないのが、自分でも不思議だった。
寛也とは今日初めて話をした、そんな気がしなかった。
「そうと決まれば、時間、あるだろ? ちょっと付き合えよ」
言うが早いか、寛也は杳の腕を掴んで生徒の波をかき分けた。
* * *