第1章
予兆
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休憩時間になると早々に席を変わってしまったのは、杳の方だった。
左右に人の座っていない場所へ移動してしまったのだ。
寛也がちょっと学食へ間食用のパンを買いに行っている間のことだった。
「あれ、K組の葵だろ? 近くで見ると、すげー美人だよな」
呆然としながらパンをかじる寛也に、後ろの席の小早川が声をかけてきた。
「でもアイツ、知ってるか? 入学したての頃、3年の不良連中と順繰りにお付き合いしてたって」
寛也は飲んでいたコーヒー牛乳を、思わず気管の詰まらせてしまった。
「もう、可愛がられたったカンジ?」
「アホ」
寛也は小早川の頭を小突く。
「変なウワサ、流してんじゃねぇよ」
言いながらも寛也は心配になる。
真実でないことくらいは見当がつく。多分、尾ヒレがつき過ぎてこんな話になったのだろうが、そんなことを噂として流されて、誰も弁護していないところが気になった。
寛也はパンをくわえたまま、カバンを抱える。
「おい、結崎?」
「悪ィ、俺も席、変わる。後でじっくり話しがあるから、昼休み、開けとけよ」
言って寛也が向かったのは、杳の座る方向だった。少し前の方。
こんな所に座ったら、周囲に人がいない分、先生から目立って仕方がないではないかと思いつつ、寛也はドカンッと音を立てて、杳の隣の席へ座り込んだ。
「!?」
驚いた表情を向けてくる杳に、寛也は椅子にふんぞりかえる。