■ 星空の魔法使い

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「それは…いくら魔法でも人の心は変えられません」
「何でだ?」
「魔法で人の心を変えることは堅く禁じられています。それはその人の命を奪うことと同じくらい罪深いことだから。それに魔法は幻にすぎません。あなたも幻に惑わされはしないでしょ?」
「だったらいいよ」

 俺はガタリと音をたてて椅子から立ち上がる。

「もう、帰れ」
「でも…」
「用はないって言ったんだ。とっとと出て行けよ」

 彼女はもう一度悲しそうな笑みを浮かべてみせる。

「ごめんなさい、本当に魔法でもできないことがあるの」
「分かった分かった、もういい。お前のことも黙っててやるから帰ってくれよ」

 初めっから期待なんてしていなかったし、言い触らす気もなかったからこれで元どおりだ。

 まだ何か言いたそうな表情を向けるその少女を、俺はドアの外へと追い出した。


   * * *


 気が滅入っていたけど、昼過ぎになって、ようやく予備校へ行こうかと、俺は再び部屋を出た。と、部屋を出て階段を降りた所に、あの少女が立っていた。

「何だよ、まだ何か用か?」

 あれから何時間経つのか、その間この子はずっとここに立っていたんじゃあないだろうな。まさかな。

「あの…約束がまだ…」
「約束?」
「ひとつだけ願いを聞くって、あなたと約束しましたから」

 何考えてるんだ、こいつは。

「もういいって言ったはずだぞ」
「でも約束したから…」

 多分バカ正直なんだろう。俺も人のことを言えた立場じゃないけど。

「仕方がない。じゃあ、俺今腹減ってるんだよ。アンパンでもくれよ」

 俺の投げやりな言葉に返事はなかった。振り返ってみるとその少女はムッとした顔をしている。何怒っているんだ。

「何だよ、それもできないことなのか?」
「できます、そのくらい。でもあなた、本当はそんなこと願ってなんかいないでしょ? あたしはあたしの大切なお願いを聞いてもらっているのに、そんな…」
「俺がそれでいいって言ってるんだ」
「あたし、約束しましたから!」

 ガキのくせに頑固な奴だ。俺は次第に腹がたってきた。

「よし、それじゃあ俺の頼み、聞いてもらおうか。いっとくけど、お前が言い出したことだからな」

 こんな子ども相手に何をやっているのかと思いはしたが、その時俺は機嫌が悪かったんだと思う。


   * * *



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