■ 星空の魔法使い
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「あなたは一体何者なんですか?」
先に俺の方から切り出せば良かったと思ったのは、外じゃあ人目につくからと俺の部屋へその子を通してからだった。結構度胸の座った小学生らしくて、知らない“お兄さん”の部屋へ連れ込まれてもびくともしない。
「人間…ではないの?」
「人間以外に何に見えるって?」
ちょっとムッとする。そりゃまあ、竜だけど。って言うか、何で俺があの時の竜だって分かったんだ?
「昨日の格好、変身できるのね」
人をウルトラマンみたいに言ってくれる。
「そういうお前はどうなんだ? 箒に乗って、本当に魔女なんてんじゃぁ…」
俺の言葉に、その少女の顔色がサッと変わる。もしかしてその通りなのだろうか。まぁ、竜なんて物もいるんだから、魔女がいても不思議はないよな。
「へー、そうなんだ」
俺はジロジロと物珍しそうな視線をその少女の上に落とした。少女はうっすらと頬を染め、唇をわずかにかみ締めている。
「それで、その魔法使いが俺に何の用だ?」
「黙っていて欲しいんです」
聞かれるとすぐに彼女は顔を上げ、真剣な表情で答えた。
「あたしが魔法使いだってこと、誰にも言わないで欲しいんです」
「言うも言わないも、俺はお前のことを知らないんだぞ。どうやって、誰に言い触らすって言うんだ」
「あたしは隣町に住んでいるんです。いつどこで出会うかも、知れない」
「昨夜みたいに雲の上でとか?」
オレの冗談に、その少女はうつむいてしまった。それでも小さな声で答える。
「あたしはあの町を離れたくないんです。大切なお友達がたくさんいるんです。でも正体を知られると――あたしが魔法使いだって知られちゃうと、もう住んでいられなくなるんです。だからお願い、あたしのことは…」
「そーだなぁ…」
俺の言葉にその子は上目遣いに俺を見てくる。
「お前、魔法が使えるんだろ? 交換条件があるんだけど。魔法が使えるんだったら、叶えて欲しいことがあるんだけど」
一瞬彼女の表情がドッと暗くなる。何だ、魔女って空を飛べるだけなのかと言いかけた時、彼女は静かに答えていた。
「何が…希望ですか? ひとつだけ…かなえてあげます」
よしっ。
俺の願いって言ったらひとつだけ。いくら愛をささやいても知らん顔で、そっけないばかりの杳。
出会ってから3年近く。どれだけ頑張っても、なかなか思い通りに手に入らない存在。
気が強くて、プライドが高くて、口が悪くて、ワガママで、自分本位。だけど本当は優しくて、思いっきり可愛いヤツ。俺はその杳の心だけが欲しかった。