■ 星空の魔法使い

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「な、本当なんだってば。本当に箒に乗った女の子がいたんだって」

 翌日、朝も早くからわめく俺に、杳はやはり不機嫌そうな顔をして見せる。早朝からたたき起こしたためか、真夜中に起こされたためか、どうやら思いっきり寝不足のようだった。

 俺の所為だろうか。そうなんだろう、この態度の冷たさは。

「ヒロは起きたまま夢を見るんだったっけ? それとも受験勉強のし過ぎで、とうとうイっちゃった?」

 口調が、冷たい。これは本気で怒っているようだ。

 だが、昨夜俺の見たのは夢じゃなかった。その筈だ。

 あのあとすぐにあの女の子を探しに地上へ降りて行った時、その子の姿はもうどこにもなかったが。しかし俺はその子の顔だって服装だって全部覚えている。今度町中で擦れ違ったとしても、絶対に見分ける自信はあった。

「とにかく朝ご飯、作って。オレ、朝一から講義があるんだから」
「信じてくれないのか?」

 俺は見上げるようにして聞く。と、杳の冷たい視線が降りて来る。

 仕方なく俺は、台所に立った。杳の朝飯を作るために。


   * * *


 杳が大学へ出掛けるのを見送ってから、俺ものこのこと予備校へ向かう。

 俺達が住んでいるマンションからは地下鉄で2駅だった。弟の潤也が探した予備校なのだから、便利なことこの上なかった。それでも、学校まで歩いて10分とかからなかった高校時代に比べると不便だったが。

 などど考えていたから、その子に気付かなかったのだと思う。

 何故今頃の時間に小学生がこんな所をうろついているのか、それだけが頭の隅をかすめただけだった。俺の意識のすべては杳の方へ向いてしまっていたから。だから先に俺に気付いて声をかけてきたのは、相手の方からだった。

「あの…ちょっと待って下さい」

 振り向いてマジマジと見たその子は、昨夜確かに俺の見た魔法使いだった。


   * * *



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