■ 星空の魔法使い

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 その夜は空が奇麗で、星空のランデブーと洒落込もうとした。二人なら結構楽しいものになるのじゃないか。そこで俺は杳の部屋のドアを叩いた。

 面倒くさそうにドアを開けた杳は、不機嫌だとありありと分かる表情を俺に向けてきた。

「今、一体何時だと思ってるの?」

 そう言う杳に俺は事情を説明する。が、杳はきれいな眉を寄せながら低い声で答えた。

「明日の昼なら付き合うよ」

 そしてそのままバタンとドアを閉めてしまった。

 チエッ!

 俺は軽く舌打ちして考えた。

 強引に部屋へ入り、杳を連れ出してやろうか。杳の拒絶は、半分はポーズなのだから、うまく連れ出せるかも知れない。そうすることは簡単だった。しかしそれは同時に杳の機嫌をとことん損ねてしまうだろうことも有り得た。そうなるとあの杳の事、何日の間口を利いてくれなくなるのか。そりゃもう、徹底的に。

 そこまで考えて俺は杳を誘うことを断念した。

 俺はゆっくり杳の部屋を離れる。

 自分の部屋に戻って窓を開け放つ。

 ふわりと俺を包む赤い気が帯を作って舞い上がる。透明なそれを透かして見上げる冬の夜空は、都会ではめったに見られないほどの星が瞬いていた。

 こぼれ落ちてこの手に積もるのではと思える。

 今夜は空気が驚くほど澄んでいた。都会でこんなことめったに、それこそ何年に一度あるかないかのものではないだろうか。

 天高く昇りながら俺は、杳を強引にでも連れてくれば良かったと後悔し始める。

 その時だった。

 俺のすぐ横を何かがかすめて行った。

 飛行機が飛ぶほど高くはない。鳥が飛ぶには今は真夜中だ。

 そいつが何物であるのか、すぐさま振り返ってみた。

 目と目が合う。

 そこにいたのは、まだ小学生くらいの女の子だった。

 こんな夜中に何故こんな小さな子が出歩いているのか――いや、それよりも、今俺がいる場所は上空数百メートルの空中だ。どうやったらこんな所に人間がいるのか。俺のように竜に姿を変えているというのならともかく。

 良く見るとその少女は古びた竹箒にまたがっている。

 これって、ひょっとして、もしかして……。

『魔法使いか!?』

 先に空から落っこちてしまったのはその少女の方だった。


   * * *



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