■ 初恋
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結局、一番最初に目についたフライドポテトのビッグサイズをひとつ買って、二人で分けながら食べた。塩味が効いていて、今まで食べたものの中で一番美味しいと感じた。
喉が乾いてしまったので、またジュースを買って飲んだ。
「よし。おなかもふくれたことだし、何か乗ろう。子どもだけでも乗せてもらえるの、探そう」
言うと、その子はふわりと笑った。
「うん」
とても可愛くて、寛也の小さな胸は先程からキュンキュン鳴りっぱなしだった。
今度は列に並ぶ前に係のお姉さんに、乗れるのかどうかをちゃんと聞いた。
動く乗り物の殆どは大人と一緒でなければ乗れないものばかりで、最後にひとつだけ見つけたのは、ゆるゆる回るコーヒーカップだった。
小学生なら大丈夫だと言われたのだった。寛也としては女の子の乗り物だと思って後回しにしていたのだが、他にないのなら仕方がなかった。
それでもその子は待ち遠しそうにしながら列に並んだ。わくわくしているその子の気持ちが、繋いだ手から伝わってきて、寛也にも伝染していく。
そして自分たちの番になる頃には寛也の方がよりワクワクしていて、危うくステップから転げ落ちそうになったくらいだった。
コーヒーカップはくるくると自転しながら、リンクの上を滑っていく。その動きはとても緩やかでまどろっこしかったのだが、遊園地へ来ることもアトラクションに乗ることもなかったその子にとっては、物珍しくて楽しいものだったらしい。
その様子を見て、寛也も嬉しい気持ちになる自分に気づいた。
この子とずっと一緒にいられたらいいのに。そうしたら、母親が身体の弱い弟にかかりっきりになっていても寂しく思うこともないだろうに。
そう思って見つめていたら、目が合った。
大きな瞳が少しだけ細められて、奇麗に笑ってみせてくれた。
「楽しかったねー」
あっと言う間だった。コーヒーカップから降ろされて、その子は嬉しそうに寛也を振り返った。
真っ白い色をした顔を、ほんのりピンク色に上気させて。
それじゃあもう一回乗ろうと言おうとした時、声が聞こえた。
「はるちゃん」
その子が、声のした方を振り返るのに合わせて、寛也も振り返った。
そこに、知らない女の人が立っていた。
「お母さんっ」
寛也と繋いでいた手が離れて、その子は駆け出していた。
そうか、お母さんが迎えに来てくれたのかとぼんやり思っていると、その子の手を引いて、女の人が近づいてきた。