■ 初恋
6/8
「おなか壊しちゃうよ」
言われて寛也はあっさり聞き入れる気になった。
いつもはジュースばかり飲んでと母親に叱られても聞かないのに。ほんの少しだけ、自分でも不思議だった。
「じゃあさ、何か食わねぇ? おれ、腹へってきた」
ぐるると鳴ったのは、丁度3時の時報が鳴ったのと同時だった。おやつの時間である。
寛也の腹の虫が鳴るのを聞いて、少し目を丸くしてその子は言う。
「じゃあ、今度はボクがおごってあげるね」
女の子なのに「ボク」だなんて、なんて可愛いんだとつい思ってしまって、不審そうに見つめてくるその子に慌ててうなずいた。
「何を食べたい?」
聞いてくるその子に、寛也はふと疑問に思った。
「って、お前、お金持ってるのか?」
「うん」
うなずいて、ウエストポーチの中から小さな財布を取り出してみせる。
「お母さんがおこづかいくれたから」
その中には千円札が3枚も入っているのが見えた。お金持ちだと、寛也は思った。子どもに3000円もくれるなんて、きっとすごいお金持ちの家の子だと思いこんだ。
よくよく見ると、着ている服も上等そうだし、靴もピカピカだった。
もしかして、先程隠れていたのは本当に誘拐されて、逃げ出して、犯人に見つからないように隠れていたのではないだろうか。お金持ちだし、こんなにも可愛いし、絶対にそうだと思った。
だったら、自分が守ってあげなくては。どんな敵が来ても、絶対に。寛也は心の中でそう決意をした。
そんな寛也の様子に気づかぬように、その子は可愛らしい笑みを浮かべる。
「何でも食べれるよ。何が好き?」
そんなに可愛く聞かれて、寛也はうろたえてしまった。
「えーっと、そのー、そーだなぁ」
考えがまとまらなかった。何が食べたいんだ、自分は。寛也が頭を抱えそうになったその寸前。
ぐるぐるきゅるる〜。
寛也の腹が盛大に鳴った。
笑い出すその子に、寛也はバツの悪そうな顔で笑い返した。