■ 初恋
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「ええーっ、何でーっ?」
メリーゴーランドの列に並んでやっと順番が来たと思ったら、入り口で止められた。大人と一緒でなければ乗れないのだと言われて。
「しっかりしがみついてるから。だって母さん、今、弟の看病してんだ」
「ダメったら、だめ。さあ、行って」
素っ気なく言われて、二人は追い払われた。30分も並んだと言うのに。
悔しい寛也は、チラリと隣に立つその子の顔を伺い見る。しかし、全く気にした様子もなく、自分だけが怒っているのが何だか馬鹿馬鹿しくなってしまった。
「しゃーねぇな。他、行こう」
そう言って寛也はその子の手を取った。
自分よりも小さくて柔らかい手を握っていると、何だかふわふわしたいい気持ちになった。
「お前、乗りたいもの、ある?」
寛也に手を引かれるままについてくる相手に、寛也はそっと聞いてみる。が、首を振るだけで、返してくる言葉もない。
先程からずっとそうだった。一言も喋ってくれないのだった。寛也が強引に引っ張って来てしまったから、怒っているのだろうか。そう思って顔を見ても、そんな風には見えなかった。
お人形のように可愛らしい顔を時々辺りに向けては、珍しそうに遊具を眺めていた。
「お前、遊園地に来るの、初めて?」
聞くと、頷く。
「じゃあ、じゃあ、ジェットコースターにも乗ったことねぇんだ?」
「ジェットコースター?」
キョトンとした顔で寛也を見つめてくる。
ものすごく可愛いと思った。こんな子がいつも側にいてくれたらいいのにと、つい思ってしまって、寛也は握った手にギュッと力をこめる。
「うん。すっげー速くて、すっげー気持ちいいんだ。ここにはねぇけど、わしゅーざんハイランドにはあるんだって」
寛也の説明で果たして理解できたものかどうか。しかし、その子はうんうんと頷きながら聞いてくれた。
寛也はちょっと嬉しい気分になる。
「あ、そうだ。のどがかわいてねぇ? ジュース、買って来ようか?」
寛也はポケットの中にある、まだ使っていない千円札を思い出す。寛也が言うと、その子はうんと頷いて自動販売機の方を指さした。
だから、二人で手を繋いでそこまで駈けて行った。
自動販売機は背が高くて、大人用だったので、二人は下の段に並ぶジュースの中から好きなものを選んだ。寛也はオレンジジュースで、その子はカルピスだった。
近くにベンチを見つけて、二人で飲んだ。ジュースカップの中の氷がザラザラ音を立てて、とても冷たくておいしかった。
寛也はあっと言う間に飲み干して、隣を見る。その子はゆっくり飲んでいて、赤い唇が濡れていて、色濃かった。
思わず見つめてしまう寛也の視線に気づいて、その子は顔を上げて少しだけ首をちょこんと傾げて見せた。
「なに?」
問いかけてくるその子に、寛也はボッと火がついたように顔が熱くなるのを覚えた。慌てて顔を背ける。
「べ…別に…おれ、もう一杯買ってこよう…」
そう言って立ち上がる所を、寛也はその子に服の袖を掴まれた。