■ 初恋
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まだお弁当を食べたばかりで陽も高く、どうやって時間を潰そうかと周囲を見渡した。
色々ある乗り物も、一人で乗るのではまるっきりつまらない。学校の友達にでも会わないだろうかと、辺りをキョロキョロしながら歩いていた。
その時だった。
建物の陰にひっそりと隠れるようにしてしゃがみ、両手でずっと耳を塞いでいる子どもが目に入った。
一人で何をやっているのかと思った。かくれんぼだろうか。そう思って辺りを見やったが、大人達に手を引かれた子どもが通り過ぎて行くだけで、誰もその子の存在に気づかないようだった。
かくれんぼではないのに、隠れているのだろうか。では、誰かから隠れているのだろう。もしかして悪い人に捕まって、または捕まりかけて逃げてきたのかも知れない。もしそうなら、黙って見過ごすことなんてできない。
思い込みの甚だ激しい年頃の寛也は、すっかりその気になって、その子に近づいて行った。
「大丈夫か?」
なるべく驚かせないように声をかけた。
耳を塞いでいるのに聞こえるのかとも思ったが、その子は寛也の声にハッとして顔を上げた。
くるんとした黒目がちな大きな瞳が、寛也を捕らえた。子ども心に、ドクンと胸が高鳴るのを覚えた。
白い透き通るような肌の色と、甘そうに熟れた果実のように赤く色づいた唇は、テレビでいつか見たことのある西洋の古い人形のようだと思った。
「ほっといて」
顔はとんでもなく可愛いのに、返して来た言葉と口調は寛也を拒絶するものだった。
それでも寛也は、その子の目がひどく脅えているように感じたのだった。
何となく分かってしまった。この子はとても怖がって、隠れているのだと。だから、つっけんどんに言われても、怒る気が起きなかった。
「迷子になったのか?」
その子と同じようにしゃがみこんで、そっぽを向く顔を覗き込む。
「あんたには関係ない」
覗き込んでくる寛也から、顔を隠すように背を向けてくる。
捨てられた子猫を抱き上げた時にビクビク震えている、それに似ている気がした。そう思ったら、放っておけなくなってしまった。
また耳を塞ごうとするその手を掴んで、寛也は立ち上がった。
びっくりした顔を向けてくるその子に言う。
「おれも今日は一人なんだ。一緒に遊ぼう」
寛也がそう言うと、黒目がちだったその子の目が大きく見開かれた。寛也はその子に、思いっきり大きな笑みを向けた。