■ 初恋
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「あ、七五三」
二人並んで、すまし顔である。二人とも明かにそれと分かる貸衣装の袴姿だった。
この頃になると、もうどちらがどちらなのか、すぐに分かった。体格も少し違ってきているし、不思議なことに、顔も全然違って見えた。同じ素材だとはっきりと分かるにも関わらず。
「ね、ヒロっていつもどこかに絆創膏、つけてるよね?」
アルバムから顔を上げて、いきなり話を振ってきた。横で潤也が小さく吹き出してから、代わりに答えた。
「腕白だったからね。いっつも近所の年上の子と喧嘩してたんだ」
「そりゃ、あいつらがお前のこといじめるからだ」
「また人の所為にして。僕はいじめられたことなんてないけど?」
「…もういい」
言い返したかったが、今更である。投げやりにそう返して、少しふて腐れた表情をする寛也。それを見て、杳がポツリと言う。
「いいよね、兄弟って」
「はあ?」
二人揃って振り返った。
半分は照れ、半分は本気で否定したくて。
覚醒する前ならまだしも、あれ以来お互いに何となく兄弟と言うよりも仲間意識が強くなったうえに、竜体では兄弟の順番が逆なので、接しにくいこともあって、微妙な感じなのである。
そんな二人の心情に気づいた様子もなく、杳は続ける。
「オレ、一人っ子だから羨ましい」
思わず顔を見合わせる寛也と潤也。
「あ。でも翔くんがいるか…。弟みたいに懐いてくれてるし」
そう呑気に言う杳に、それは違うと二人は揃って心の中で叫んでしまっていた。
翔が杳にべったりなのは、杳を兄のように慕っている訳ではなくて、間違いなく恋愛対象として見ているのだと、二人は知っていたので。自覚がないのは、当の杳本人だけであった。
「あれ…?」
と、杳は一枚の写真に手が止まった。
それは、遊園地のような所での記念撮影だった。二人とも、すごく嬉しそうに笑っていた。
「ここって…王子が岳ファミリーランド?」
杳の言うのは、市内にあった子ども向けの第三セクターの遊園地で、数年前に閉園されてしまった所である。その後、民間会社に買収されて、今では別の遊園地として運営されている。
「杳も行ったことある?」
「ん。一回だけ…」
市内に住んでいる子どもで、一度も行ったことがないなんて余りいないのではないだろうか。今ではもう存在しないが、マスコットのウサギのモモちゃんは、かなりの人気者だった。「モモちゃん体操」なるものまで作られて、朝の子ども向けローカル番組としてテレビで放映されていたくらいだった。