■ 初恋

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「うわっ、可愛いーぃ」

 中間考査の勉強を見て欲しいと言って日曜日の朝から結崎家へやってきていた杳は、早々に勉強に飽きると、寛也の部屋からアルバムを引っ張り出してきて広げ始めた。

「おい杳、人のものを勝手に…」
「いいじゃん。減るもんじゃないし」
「減るんだよっ」

 そう言って寛也は、杳から自分のアルバムを取り戻した。

 本当に油断も隙もあったものではない。

 子ども頃の写真など、可愛く撮れているものも勿論多いが、とんでもないものまで混じっているものである。それこそ、パンツ一丁のものから、スッポンポンのものまで。

 絶対に、杳だけには見られたくなかった。

「何だよ、ヒロのケチ」

 杳は不満そうな顔を向けて、ベーッと舌を出して見せる。そんな可愛いことをされても見せられないものは見せられないのである。

 杳は頑なに拒む寛也に見切りをつけたのか、潤也の方に向き直る。

「じゃあ、潤也のアルバム見せて」

 寛也はハッとする。

 二人の写っている写真については、親がきっちり二枚ずつ焼いて、それぞれのアルバムに収めていた。寛也の恥ずかしい写真も、横に潤也がひょっこり写っていたら、潤也のアルバムにも入っているかも知れない。

 慌てて止めようとする寛也よりも早く、潤也はにっこりと笑顔を杳に向ける。

「いいよ。その代わり、今度、杳のも見せて」
「うん」

 あっさり了承するのに、寛也は一瞬動きが止まる。

 杳の子どもの頃の写真――ものすごく、見たかった。とんでもなく可愛いだろうことは、想像にたやすい。そう思って杳を見やる寛也に気づいて、杳はまたべーっと舌を出して見せた。

「可愛くねぇ」

 ついうっかり言ってしまって、杳にそっぽを向かれ、自分はつくづく間抜けだと思ってしまった。

「はい、お待たせ」

 自分の部屋からアルバムを持ってすぐに戻ってきた潤也は、座卓の上にそれを置いた。教科書は既に隅の方へ片付けられていた。

 寛也の物とお揃いのアルバムは、出生の時に一緒に買ったものらしい。

 分厚い表紙を一枚めくると、真っ赤な顔をした皺くちゃの赤ん坊が二人並んでいた。

「うわっ、双子だ…」

 そっくりの顔をして、そっくりの泣き方で泣いているその姿は、今の二人の違いからは考えられなかった。

「一卵性双生児だからね。生まれた時は、即、保育器だったんだよ」

「信じられないー。二人とも高三標準、軽く越えてるのに」

 潤也はまだしも、寛也なんて健康優良児そのものである。風邪などひいたこともないようにしか思えなかった。

 そう言う杳に、双子は揃って苦笑する。


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