第 5 話

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 バタンと乱暴にドアが開かれ、息せききってライムが部屋の中に飛び込んできた。
「ライム…」
 約束どおり一睡もせずにエドガーの看護をしていたのだろう、マルスがライムの姿を認めて立ち上がった。
「『魔物の毒』を手に入れてきた。これをどうすればいいんだ?」
 小さな壷のようなものを取り出し、ライムはマルスに尋ねる。
「どうやって…」
 手に入れられる筈など絶対に無いと踏んでいたマルスは、疑問の方が先にたった。が、ライムは急ぐのだと説き伏せて、マルスに後を頼んだ。マルスは気になりはしたものの、こちらも一刻を争うものだと分かっていたので、ライムから目的の物を受け取る。
 と、触れた指先に、感じるものがあった。
「…ライム?」
 見上げると、いつもの表情。しかし、どこか違うもの。問いただそうとしたが、できなかった。マルスはそのまま、毒を解毒薬に変えるための準備の為に、壷を抱えるようにして部屋を出て行った。
 マルスが部屋を出るのを見届けて、ライムはエドガーのベッドの側に置いてあった椅子に腰を降ろす。
「もうすぐですよ、エドガーさま。もう少しだけ頑張ってください」
 そう呟くように話しかけると、ライムはシーツの上に出ていたエドガーの手を取った。熱と毒で既に紫色に染まったそれに、ライムは頬寄せる。
「…エドガーさま…」
 目を閉じて、しばしそうしたままのライムは、傍から見るにまるで何かを祈っているようだった。
「…イム…」
 小さな言葉がエドガーの口からこぼれたと思うと、ゆっくりとその目が開かれた。高熱に潤む瞳がライムを捕らえる。
「怪我は、…ないか?」
 自分が大怪我をしておきながら、他人の心配などしている場合ではないものをと、ライムは苦笑を返す。そのライムを、エドガーはもう一方の空いた方の手で引き寄せる。
「エドガーさま…?」
 普段に無い行動に、多少うろたえるライムの耳に、エドガーの声が届く。
「お前が無事なら…それでいい」
 その言葉の奥の意味に、ライムは胸が痛くなる。


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