第 5 話
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「どうしても助けたいんです。その人、オレを庇ってモンスターにやられて…あの時庇ってくれなかったら、俺が死んでいたんです」
「…関係ない…」
魔物はそう言って、ライムの脇を擦り抜けようとする。それを許さずライムは魔物の前へ回り込む。
「貴方の毒に当てられた森の生き物のしたことでしょう。貴方にも関係あることだと思います」
ジロリと睨まれたが、もうそれも怖くはなかった。ライムは首をしゃんと立ててその魔物を見返す。そのライムを相手はしばし凝視し、それから静かに問うてきた。
「ならば私の持つ魔の毒をお前に与えたとしたら、お前は私に何を与えてくれると言うのだ?」
ライムを見下ろす魔物の瞳の奥には、読み切れない色が浮かんでいた。それは深い悲しみの色にも似ていた。
「…お金ですか?」
与えられるような大金を持っている訳もなく、ライムはおずおずと聞いてみる。が、魔物がそんな人間の俗物を欲しがるはずもなく、相手にもされなかった。
「生粋の魔の毒は我が身を切り裂くも同じ。おまえがそれを望むと言うなら、同じ痛みに耐えて、私に与えてくれるものでなければならない」
言葉の意味を理解しかねるライムに、魔物は薄い笑みを浮かべる。
「我らが魔の物には決して持ち得ないもの。お前の背に生えるものを所望したい」
「…え…?」
弱い月の光さえ透かしてしまい、影も落とさない薄い妖精の羽。ライムの背からすらりと伸びるその羽の上に、魔物は目を止める。
「美しいものだ。妖の物はこれほどまでに美しい姿を持つ。闇を生きる我らとは至極異なるものよ」
一歩後ずさるライムに、魔物はするりと、きぬ擦れの音さえたてることなく近づく。ライムの表情に恐怖の色を見取ると、魔物は静かな口調で続ける。
「朝露とともに生を受けし妖の物、その魂の宿る羽を失いし時、再び朝の露にかえらん 真に必要ならば、それさえも可能ではないのか?」
答えられずにいるライムに、魔物は背を向ける。
「必要ならば、また来るがいい」
そう言って、魔物は再び闇に消え行こうとする。
今、この機会を逃すとエドガーはどうなるのか。自分を守ってくれたことよりも、はるかに深い思いがあった。自分はエドガーをどうしても助けたいのだ。絶対に引くことはできない真実だった。
ライムは闇に向かう魔物の背に、一歩足を踏み出した。
* * *