第 5 話
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昼間の森は薄暗くても、それでも陽光の恵みを受けていた。しかし、夜の森は月の光を通さず、ただ暗く淀んだ空気を生み出していた。これが魔の物の気によるものだとは、ライムも薄々気づいていた。が、引き返すつもりはなかった。
人の姿をしていれば余計に魔を引き付ける。十を越えるモンスターを倒してからようやく思い直して、ライムは姿を戻す。
本来の、生来のもの。人ではないもの。
一種の魔の物であるそれに、小さなモンスター達は思った通り近づかなくなる。おかげですぐに歩みは楽になった。それと同時に勘が冴えてくる。
同種の匂いをかぎ分けるのは人の姿をしている時よりは随分はかどった。次第に濃厚になる魔の匂いに、ピクピクと耳が軽い痙攣を起こす。
「…近いか…」
つぶやいた途端、目の前に現れたもの。
「魔族…っ!」
さすがのライムも予想していなかった物の、いきなりの出現に身を強ばらせた。
闇から溶け出たような魔の生き物だった。それは静かにライムを見下ろした。
「妖のモノが何用か?」
闇から響くようなその声に、ライムはぞっとした。これまでの旅で幾度か目にすることがなかった訳ではないが、これ程までに深い闇を見たことがなかった。それと同時に、どこか見知った近しいもののようにも思えた。
「あ、貴方がこの森にモンスターを出現させている元凶ですか?」
ストレートな言葉しか出てこなかった。相手はそれを不快と思うでもなく、わずかに目を細めてゆっくりとした口調で答えた。
「意識的なものではない。余りにこの森が純朴すぎたので、容易く私の力に染まってしまったのであろう」
そう言ってその魔物は、興味なさそうに背を向けようとする。魔物とは言っても、その外見に牙のひとつもあるわけではないが、その醸し出す独特の雰囲気が、人ならざるものを証明していた。外見ではなく、その存在そのものが人を恐怖させるのだった。
「ま、待ってくださいっ」
ライムは怯む心を奮い立たせ、その魔物に声をかける。彼はライムの声にゆっくりと振り向く。
「あなたの作り出したモンスターの毒で、オレの連れが重症を負ったんです。魔の物の毒は魔の物の毒で中和ができると聞きました。お願いです。貴方が持つものを分けてください」
そう言ってライムは駆け寄る。近づいてみて初めて知る。その魔物の瞳の色の深さに。ともすれば吸い込まれそうなほどだった。