第 5 話

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 助けた少女は森の出口を抜けた村里の住人だった。
 彼女の案内で村に宿を取って医者を頼んだが、しかしエドガーの怪我は思った以上に深かった。
「残念ですが…」
 医者はエドガーの傷の深さに一瞬たじろぎ、それでも一通りの治療を済ませた。しかし、それ以上手の施しようがなかった。
「持って明日の夜明けまででしょう」
 無慈悲にも聞こえる医者の言葉は、素人目にも真実に思われた。結局その医者は治療代も取ることなく帰って行った。
 医者を見送った後には、重い沈黙が残っただけだった。
「…私を助けてくださったばかりに…」
 少女は本当に申し訳なさそうに頭を下げたのを、彼女のせいではないとリオンが優しく慰める。
「あの森にあんなにも凶暴なモンスターが出たのは初めてなんです。しかもこんなに村に近い所になんて…」
 少女は森に山菜を摘みに行っただけだと言う。普段なら人が近づけば逃げ出すような小動物ばかりの森なのだと。
「何言ってんだ。俺達あそこを抜けてきたが、モンスターだらけだったぜ」
 うろんな目付きで少女を見やり、セフィーロはそう返す。
「とにかく、ここは怪我人がいますから、隣の部屋へ」
 リオンがそう促すのに従って、セフィーロは部屋を出ようとした。ふと、振り返り、怪我人に付き添ったままのライムに目をやる。
 セフィーロの脳裏に、嫌な考えが浮かぶ。どこかで、こんな結末を望んでいたのではないだろうか。エドガーを邪魔だと思ったことが。エドガーがいなければと思ったことが。
 セフィーロはその考えを振り捨てるようにブルブルと頭を振る。その彼の目に同じ様にライムを見つめるマルスの姿が映った。
「…何をやってもきっと助からないよ、ライム」
 冷静な口調でマルスがつぶやいた。何も追い打ちをかけることなどないと、さすがのセフィーロも止めに入ろうとしたが、セフィーロの言葉などマルスは聞かなかった。
「あのモンスターからは魔族の匂いがした。あの爪にはきっと妖魔の呪いがかかっていたんだよ」
「妖魔の呪い?」
「…さっきの子が言ってたじゃない、普段は何ともない森なんだって。だけど何かの拍子にあの森の生き物に、魔の息がかかってしまった。そのせいであんなモノまで出てしまったんだよ」
 だからいくらライムの回復の魔法を使おうとも、傷口はふさがっても呪いの毒は消せないのだと。その証拠に、エドガーの受けた傷口は早くも腐り始めていた。医者がそれを目にして驚いたのも事実だった。
「…どうすれば、その毒は消えるんだ?」
 マルスに縋るような目を向けるライム。しかしマルスは首を振る。
「無理だよ。魔の毒は魔の毒でしか中和できない。どこで手にいれるのかなんて…」
「それを手に入れればエドガーさまは助かるんだな?」
 ライムの表情にわずかに陽がさしたように見えた。ほんの少しでも可能性があるのなら、それにかけたいとライムはマルスの手を取る。
「俺、明日の夜明けまでに魔の毒を探してくるよ。それまで、エドガーさまのこと、頼んでいいかな」
「探す気なの?」
 無理だと初めから決めつけて話したつもりのマルスは、大きく目を見開いてライムを見やる。
「明日の夜明けまでなんて無理だよ。もし見つけられたとしても、ライム、あんな魔法じゃやられちゃうよ」
「大丈夫。あれはちょっと手を抜いただけだから」
 もういつもの笑顔を浮かべるライムに、マルスは心配な表情を崩せない。
「だったら僕も一緒に行くよ。少なくとも魔法の勉強は僕の方が優秀だったからね」
「マルスには、エドガーさまのことを頼みたいんだ。なるべく早く帰ってくるけど、でも…」
 少しでも命をつなぎとめるために、マルスの魔法を使って欲しいと懇願するライムをマルスは断りきれなかった。渋々承知の意を示すマルスに、ライムは満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう、マルス」
 喜ぶライムに、マルスは複雑そうな表情を返しただけだった。


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