第 4 話
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「セフィーロッ!」
名を呼ぶと、うつろにライムを振り向く。そのセフィーロを捕まえていた男に、オリバーは自分の手にしていた剣を放り投げる。くるりと大きく弧を描き、剣がその男の手に収められた。
「血なまぐさいのはあんたに任せるわ。どれでも一本、切り落としていいわよ。ただし、首だけはまだ繋いでおいてね」
ぞっとする言葉が赤くルージュをひいた口から投げ出される。ライムは背筋に悪寒が走るのを感じ、知らず、身震いする。
大剣が振り上げられ、そして 。
「やめろーっ!」
悲鳴にも似たライムの声が引き金だった。
テントの中を突風が吹き荒れた。それは人の体をも吹き飛ばす程のもの。オリバーは風に飛ばされ、床に叩きつけられた。
「何なのっ?」
オリバーの紡ぎ出された声は、風の音にかき消される。振り上げられた大剣は男の手を離れ、天井を突き破り、高く舞い上がったかと思うと、そのまま急降下して、その男の頭上へと突き刺さった。吹き荒れる風に血飛沫が混ざりあう。
突然の風に、何事かと顔を出す手下の男達も次々に吹き飛ばされていった。
オリバーはその風の向こうに、ふらふらと立ち上がるライムを見た。まさに風の渦中に立っていた。その姿は、つい今し方までとは少しだけ身体が小さく見えたが、その背には吹き荒れる風さえ擦り抜けていくような、薄い羽が生えていた。
「あんた、まさか…」
呟いたオリバーの言葉にライムがゆっくりと振り向いた。青い光を放つ瞳が、生ある者を否定する妖魔の輝きを宿していた。オリバーはその光に喉の奥が引きつった。
ゆっくりとライムはオリバーに近づいてくる。それに合わせてオリバーは床を這うように後ずさる。