第 4 話

3ページ/16ページ


「さあ、見ていって頂戴。風邪薬に胃腸薬、傷薬から湿布、ご家庭用常備薬なら一通りどころか、三十通りは揃っているわよ」
 そう言って薬屋は店を広げた。成る程、常識的な物はちゃんと売っている様だった。
「そろそろ、持ち薬がきれる頃だと思ってさ。ほら、俺達って、何かよく怪我してるだろ?」
「そりゃ、おめぇが突っ掛かって来るからだろうが」
 セフィーロとライムの二人は一緒に旅を始めてからは、よくよく傷薬のお世話になっていた。思えば初めて会った時から取っ組み合いをしていた。
 ライムは適当に、傷薬やら湿布やらを買い求めた。
「これで、しばらく大丈夫だから、安心しろよな、セフィーロ」
 にっこり笑ってそう言うライムこそが、薬を使い果たしていることを棚に上げていた。
「とっころで、坊や達、こんな物は必要じゃなぁい?」
 薬屋は妙に明るい口調で鞄の奥から何やら取り出した。見ると、紺色の瓶に詰めた、いかにも怪しげな代物だった。
「何ですか、これ」
 ライムが小首を傾げる。
「よくぞ聞いてくれたわ。これはね、実は東方のジャングルの奥にしか生えていないと言う薬草で作られた…」
 薬屋はそこまで言って、きょろきょろと辺りを見回した後、ずいっと、ライム達の方へ顔を近づける。そして声をひそめながら続けた。
「惚れ薬なんだよ」
 一瞬の沈黙の後、ため息をついたのはマルスだった。
「幻覚剤の間違いじゃないですか?人の心を惑わしては、悪巧みに利用する薬でしょう?東方に行かなくても最近は交易で手に入りやすくなったと思いますけど」
「可愛くないわね、あんたは」
 薬屋はジロリとマルスを睨む。その薬屋に、マルスはベーっと舌を出して見せた。
「ね、ライム、用事が終わったんなら早く次に行こうよ。こんな変な薬より、僕、砂糖菓子が食べたいなぁ」
 ライムの腕に手を絡ませて甘ったれた声でそう言うと、ライムは邪険にできなくて、素直にうなずく。
 薬屋が舌打ちするのがセフィーロの耳に届いたが、その彼を一度だけ振り返って、すぐに二人を追いかけた。


   * * *



次ページ
前ページ