第 3 話

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「城へ来て欲しいということだ。城へ来て私の妃になって欲しいと、何度も言った筈だが」
「…ルシフェル様、そのことだったらオレも何度も申し上げました。お断りしますって」
「だが、ライム」
「オレ、男ですから、ルシフェル様の望む通りにはできません」
 きっぱりと言い切るライムに、ルシフェルはわずかに眉の根を寄せるが、それでも続けて出された声は、平静なままだった。
「そなたの意志ひとつで、この国の命運が決まると分かっているのか?」
「大袈裟すぎます、ルシフェル様。俺には何もできません」
「そなたでしか適わぬことだ。よく考えるがいい」
「よく考えました」
 ライムはルシフェルから目を逸らす。
「でも、嫌なんです。どうしても…」
 ライムの強く握られた拳に、力が入るのが見て取れた。ルシフェルはそのライムにゆっくり近づき、そっと腕を回す。そのルシフェルの手をライムははたき落とす。
「ルシフェル様は責任感の強い方だから、だからオレに城に来いっておっしゃっているだけでしょ?本当にオレのことを思ってくれている訳じゃないでしょ?」
「そのようなことはない。私は本当にそなたのことを好いている」
 感情のこもらない、冷静な声が返される。それをライムは小さく笑って受け流す。
「その言葉に少しでも真実が含まれていたら、もう少し考えたかも知れません」
 はっきりと、否定の意を示して、ライムはルシフェルに向き直る。
「オレ、ルシフェル様のこと、尊敬しています。子供の頃からずっと、いつか大人になったら、ルシフェル様のお力になりたいと思っていました。でもそれは、こんな形じゃなくて、一人前の男としてルシフェル様にお仕えするのが夢だったんです」
 ルシフェルを見上げてくるライムの瞳が、わずかに揺らめいていた。
「ルシフェル様、どうかオレの期待を裏切らないで下さい」
「ならば、そなたは私にどうすれば良いと言うのか。我が種族を存続させる為に、他に何ができると言うのか」
 人の上に立つ者故の苦悩もある。その事を察しきれないライムではないが、それでも邪魔をする感情。
 どうしても、どうしても、首を縦に振れないことがある。
「オレが探してきます。オレ達が安心して暮らせる土地を」
 この突拍子も無く紡ぎ出された言葉に、ルシフェルは一瞬、言葉を失う。
「そうしたら、オレ、種を保つだけの『道具』にならなくてもいいでしょう?一人前の男として扱っていただけますよね」
「ライム…」
「大丈夫です、ルシフェル様。絶対に見つけて来ますから。一人前になって帰ってきますから」
 ライムの瞳は真剣で、ルシフェルはそれ以上言い返せなかった。
 その日の夜半、弱められた人間界との結界をくぐり抜けて、ライムは村を後にした。知らされなかったマルスはルシフェルを責めた。
 そして、自分を責めた。


 あの湖のほとりに、薄紫の百合水仙の花は、とうとう咲くことはなかった。


   ◇◆◇



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