第 ３ 話
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「王が、お待ちになっています」
ライムの家まで帰って来ると、軒先に見慣れた家臣が立っていた。彼が常にルシフェルの側に仕えている者で、その彼がここにいるということは、ルシフェル自ら赴いている事を示していた。
ライムは黙って踵を返そうとする。そのライムの腕を取るマルス。
「いつまでも、逃げられないよ」
本心とはひどく掛け離れた言葉が、自分でも他人のもののように聞こえた。こんな役回りなんてしたくないのに。
マルスを振り返るライムの目が、少し悲しそうに見えた。
「中へ、どうぞ」
家臣が、ドアを開ける。マルスがライムの腕をつかんだまま中へ入ろうとするのを、ライムはそのマルスの手を振り払う。
「ひとりで行ける」
ライムの言葉が意外だったのか、マルスは目を見張る。その表情に、ライムは小さく笑って返した。
「これはオレの問題だから、マルスは帰ってくれないか？」
「大丈夫なの？」
顔を覗き込むが、ライムは笑顔を崩さなかった。その裏に何を考えているのか、マルスには読み取れなかった。が、言い出したら何事も引かないことは昔から知っていた。マルスはおとなしくライムの言葉に従う。
マルスが腕を離すと、ライムは入り口のドアに視線を移す。その横顔が、普段見慣れないものに見えた。
＊ ＊ ＊
家の中は、ライムの一人暮らし故、余分な家具は殆どない、シンプルなものだった。その中で、ルシフェルは古い木の椅子に座していた。
ライムの帰って来た姿を見ると、ゆっくりと立ち上がった。
「留守だったので、勝手に上がらせてもらっている」
落ち着き払った、抑揚のない言葉がルシフェルの口から出る。その言葉にライムは、真っすぐな瞳で返す。
「わざわざこんな所にまで足を運んでくださり、ありがとうございます。御用がありましたら、オレの方からお伺いしましたのに」
大きな嘘。ここのところ何度も使いをよこしたと言うのに、ライムは一度もルシフェルの元を訪ねることをしなかった。そのことは暗にルシフェルへの拒絶を示していた。それに気づかないルシフェルではないが、ここまで出向く所を見れば、表面は平静を装っているが、その実、業を煮やしているのだろう。ライムもそのことに気づきながら素知らぬ顔を決め込んでいた。
そんなライムに遠回しな言葉は誤解の元とでも思ったのか、ルシフェルはストレートに話を切り出した。
「ライム、そろそろ良い返事をもらえないだろうか」
「何のことですか？」
とぼけてみせるライムに、ルシフェルは小さくため息をつく。