第 2 話

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「何だよ、おめぇらは」
 セフィーロは一歩前へ出て、ライムを背にかばうように立った。
「我々が用のあるのはお前ではない。下がっていてもらいたい」
 物言いは、町外れのチンピラとは思えない、きちんと教育された宮仕えのものに近かった。
 その男達の中の一人が、ゆっくりと歩み寄る。
「王がお待ちです。帰りましょう」
 差し出す手を、ライムはきつい眼差しで追い返す。
「一人前になったら帰るって言ったでしょ?オレは…それまで帰りません」
 酔っているにしては、はっきりとした口調だった。ただ、後ろへ下がろうとする動きは、すこぶる鈍かったが。
「そうはいきません。我々の任務は、あなたを国に連れ戻すことですから。ご同行願えますね」
 そう言って男は、ライムの腕を取ろうとする。その手をはたいたのはセフィーロだった。
「嫌だっつってんだろ。諦めろよ」
「何なんだ、お前は」
 鋭い視線がセフィーロを振り返る。
「何って…その…」
 聞かれて返答に困る。よくよく考えると、セフィーロはライムと会うのはこれで二度目だった。一緒に旅をしている仲間でもないし、まだ友達と言えるまで仲よくなったわけでもない。ただ、後を追いかけてきただけの自分って、一体何なのだろうかと、改めて疑問に思う。
 戸惑っていたセフィーロの横から、ライムがセフィーロの腕にしがみついてきたのはその直後。
「セフィーロはオレの恋人だよ」
「ええーっ?」
 言ったライムを除く全員が驚きの声を上げる。当然セフィーロもである。
「こ、恋人って…?」
「だから、帰りません。そう王様に伝えてください」
「おいこら、ちょっと待て」
 動揺しきったセフィーロが、ライムの手を振りほどこうとする。その様子に、後ろから男が疑い深そうな声をかける。
「そう言えば我々が諦めるとでも思っているのですか?」
 ライムはそれでもバレバレの嘘をつき通そうとする。
「嘘じゃありませんよ。セフィーロがどう思ってるかは知らないけど、でもオレは…」
 見下ろすと、ライムの青い瞳があった。酔いのため、わずかに潤んでいた。
 何故か、鼓動が高鳴る。
「セフィーロのことが…好き」
 静かに瞳が閉じられる。ゆっくりと近づく唇に、セフィーロは見入られたように動けなかった。
 熱い吐息が伝わる。抱き締めた腕の中で、小さく震えるのを感じた。


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