第 2 話

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「えっ、ちょっと…」
 とっさのことに、セフィーロはそれでもライムの体を受け止める。
 ふわりと、柔らかくセフィーロの腕の中に落ちてきたライムは見た目ほどの重量感はなかった。あの、きれいな色の羽根を持った、小柄な妖精の姿が思い起こされる。
「ごめん…」
 そう言って、セフィーロの腕から逃れようとするが、その実、腕にも力が入らない様子だった。一体どれほど飲んでいたものか。
「とっとと帰って、休めよ」
「だって、宿には…エドガーさま、別の人と一緒だし…」
 ぎゅっと、唇をかみ締める横顔。頬が朱に染まって見えるのは、酒気の所為だけではないのかも知れない。
「ったく、あの野郎…」
 知らずに悪態が口をつく。
「ごめんな、オレ、大丈夫だから…」
 そう言ってライムはまた体を起こそうとする。しかし、それは適わなかった。一度倒れ込むと、体は起き上がる努力を放棄してしまった様子で、ライムの意志を無視していた。
「仕方ねぇな。俺達の宿へ来いよ。おめぇ一人くらい何とかなるから」
「でも…」
 一応、遠慮の様子を見せるが、行くところもない身、すぐにセフィーロの厚意にうなずいていた。
 放っておいたら本当に朝まで一人で飲んでいたかも知れないと、一人で立ち上がれないライムを支えて店を出ながら、そう思った。


   * * *


「ったく、よくもまあ、こんなにデロデロになるまで飲んだもんだな」
 途中で気分が悪いとうずくまるライムに、頭の上から呆れた声を投げかける。弁解する気力もないらしく、ライムは俯いたまま、肩で息をしながら、黙ってそれを聞く。その姿が、妙に小さく見えた。
 何か、自分の中でもやもやとした感情が生まれて来るのを感じて、セフィーロは慌てて首を振る。飲んでもないのに、自分まで酒気にあてられたのかもしれない。
「もうすぐだからよ、辛抱できるか?」
「ん…」
 力なくうなずいて、ライムは顔を上げた。月明かりに、青い顔がひどく生めいて見えた。
 人ではないモノ――それはどこか危険な匂いを漂わせながらも、セフィーロを引き付ける。セフィーロはゆっくりと手を伸ばして、ライムの頬へ触れようとした。
 その時だった。
 今までなかった筈の気配が、セフィーロ達の周りを取り囲んだ。
「ようやく、見付けた」
 はっとして振り返ると、そこには見慣れない男達がいた。数にして五人、皆一様にして線の細い印象を与えた。衣類は一見して絹と分かるものを身に纏い、腰にはレイピアが光っていた。


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