第 2 話
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「ダメダメ、子供は入れてやらないよ」
最初の店に入るなり、そう言われた。思わず二人で顔を見合わせて、先に言い返したのはマルスの方。
「どこをどう見たら、僕らがカップルに見えるって言うんですか」
「最近は色々いるからね。とにかく、うちはお子様はお断りだからね」
横で見ているセフィーロには、はっきりとマルスが怒りを膨らませているのが分かった。あわてて口添えをする。
「俺達は人を捜しているんだ。ここに、真っ赤な髪をした背の高いエドガーって男が、女連れで来なかったか?」
女連れとは限らないけどと、マルスが小さくつぶやいていたのを聞かないフリをする。本当にこいつは見かけによらず、ギョッとするようなことを平気で口走るヤツだと思った。
「エドガーね…」
店員はそれでも、セフィーロ達をうさんくさそうに眺めてくる。こんな店だからこそ、個人の秘密は守るものなのだろうか。それとも単に子供だからと、相手にするつもりがないのか計りかねた。
「ま、宿帳の中にはそんな名前の男はいないね」
店員はセフィーロ達を値踏みした後、そう答えた。その言い方があまりにもぞんざいだったので、セフィーロは思わず言い返そうとする。そのセフィーロを止めたのは、今度はマルスの方だった。
「じゃあ、そんな男を見かけたら教えてくれないかな。僕達の仲間が、トーライ通りの宿に泊まっているから」
そう言ってマルスはその店員に何かをつかませていた。店員はその手の中にあるものを見て、にんまり笑う。
「さあ、次へ行こう」
マルスはセフィーロの腕を取ると、そのままさっさと店を出た。
* * *
「ああ、アーガイルの実だよ」
先程の店で店員に持たせたものの名を聞いて、セフィーロは首を傾げる。
「アーガイルの実って…?」
「何だ、知らないんだ」
どこの田舎から来たのかと付け加えながら、マルスは教えてくれた。
それは南の熱帯地方で採取される、幻覚性の強い麻薬だった。その実を干して粉にし、香呂で炊きつめるのだと言う。マルスが持っていたのはその生実で、その一粒からは数千ゴールドの値をつけるものが作れるのだと言う。
「何でそんなもの、おめぇが持ってるんだよ」
「さあてね」
くすくす笑って、マルスはセフィーロに背を向けた。何か、気分が悪かった。
セフィーロは見慣れない夜の町を<辺りを見回しながら歩いていた。時折はぐれまいとマルスの背を気にしながら。しかし、はぐれたと言っても別段困ることもないと、思ったが。
そのセフィーロの目に、ふと、見覚えのあるものが写った。
はっと思って立ち止まる。
セフィーロの目に止まったのは小さな酒場だった。その隅に求める人影を見付けたのだった。
「…あれは…」
セフィーロはマルスに声をかけようと振り返る。が、彼は背を向けたまま、気付いた様子もなく、どんどん歩いて行っていた。セフィーロはそのまま、黙ってマルスの背を見送って、酒場の中に足を踏みいれた。
* * *