第 2 話

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「おかしいな。この町にいるのは確かなんだけどな」
 次の宿屋で終わりにしようと考えていたセフィーロであったが、マルスはそれを許さなかった。陽の高いうちは足を使って捜すのだと言って聞かなかった。加えて、そんなにのんびりしているからいつまでたっても見つからないのだとも言った。言われっぱなしも癪に障るので、セフィーロは負けじと宿を回ることにした。ただ、本当に疲れた様子を見せるリオンだけは、先に部屋を取らせて休ませたが。
「そう言えば前に…」
 セフィーロは出会った夜の事を思い出す。あの時エドガーは別に宿を取っていなかっただろうか。確か、女性と一緒に。
「それだよっ!」
 マルスは、セフィーロの言葉にポンと手を叩いた。
「そうだよね。あのエドガーのことだから、きっと怪しい宿で休憩しているんだよ」
 妙に確信を持って言う。セフィーロはわずかに顔を引き釣らせていた。
「と言うことは、そのテの宿を捜してみれば、見つかるかも知れないね」
「そのテの宿って…?」
 セフィーロは一歩下がって聞く。と、マルスはにっこり笑顔のまま答えてくれた。
「決まってるじゃない。ラブホテルだよ」
 可愛い顔をしてさらりと言ってのけるマルスに、セフィーロは顔から火が出そうだった。
「ラ…ラ…ラブ…?」
 セフィーロの焦る様子に、マルスは目を光らせた。
「何ウブなフリしてるの。まさか、本当に“初”なのかなぁ」
 意地悪にそう言ったマルスは、明らかにからかいを含んだ口調だった。それに気付いて、セフィーロはあわてて取り繕う。
「んなこたぁどうだっていいだろう。それよりも、おめぇこそ、そんな顔してすげぇこと口走るじゃねぇか」
「見かけだけで判断しないでよね。これでも僕は君の何倍も…」
 言いかけて、マルスは口ごもる。
「とにかく、行くの?行かないの?」
「行くに決まってんだろ」
 わざと威勢よく答える。内心、どんな所かとびくびくものであった。ただ、半分は興味深いものでもあったが。
 リオンがこの場にいたら、卒倒しないまでも、断固として行かせてはくれなかったに違いない。そんなことを考えながら、セフィーロはマルスが颯爽と歩く後ろを怖怖ついて行った。


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