第 1 話

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 セフィーロが目を覚ましたのは、見慣れたベッドの上だった。心配そうにリオンが顔を覗きこんでいるのが、一番に目に入った。
「ああよかった、やっと目がさめました」
 本当に安堵した様子のリオンにセフィーロはしばらくぼんやりと天井を見つめていたが、思い出したように跳び起きた。
「あいつは?」
「まだ、寝ていてください。少し頭を打っているみたいなんですから」
 リオンはセフィーロを再び横たえさせようとするが、セフィーロはそれを拒否する。そして部屋を見回す。
「…あいつらは、どこへ行ったんだ?」
「あいつら…?」
 セフィーロの問いにリオンは首を傾げて、しばらく考える様子を見せる。それから、ポンと手を打って答えた。
「ああ、あのお二人ですね。何でも先を急ぐからと、ひどくあわてて旅立って行きましたよ」
「何だって?」
 気を失ったセフィーロをここまで運んでくれたのは、エドガーとライムの二人だったとリオンが教えてくれた。あの風の所為で、したたかに頭を打ったためとは言わず、ただ誘拐犯の手から救ったのだと言っていたらしい。ついでに例の大臣についても事が明るみに出て、それなりに処分されたそうだった。そしてリオンは、あの二人のことを疑って悪かったと付け加えた。
 まだ頭がくらくらした。一体どのくらい眠っていたものか。
「くっそー、あの野郎」
 セフィーロは包帯を巻かれた頭を押さえながら、思い出しては次第に怒りが込み上げてきた。
「オレは借りをまだ返してねぇんだぜ」
「はっ?何か言いましたか?」
 ベッドの上で握りこぶししてみせるセフィーロのつぶやきに、リオンが振り返る。そのリオンの襟首をつかみ上げるセフィーロ。
「あいつら、どこへ行くって言ってた?」
「えっ?えっ?えっ?」
 セフィーロが何を尋ねているのかの真意をつかみきれず、リオンは返答に困る。そんなリオンから何とか二人が北へと向かったと聞き出して、セフィーロはベッドから飛び出した。
 履きやすい外出用の靴を履き、セフィーロはさっさと身支度を整える。
「王子、どこかへお出掛けですか?」
 恐る恐るリオンが尋ねるのを、セフィーロは振り返りもせずにあっさりと答える。
「借りは返しておかねぇとな」
「はぁ?」
 にんまりと笑ったセフィーロの決意を止めることは誰にもできなかった。


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