第 1 話

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「初めからそうやって素直になればいいんだよ」
 ライムはセフィーロのロープをもどかしい手つきで何とか解くと、最後にそう付け加えた。セフィーロは多少しびれの残る手足を馴染ませながら、言いなりになっていた。
「さて、そろそろ逃げようか」
 ライムは再び部屋から出ようとする。と、ドアからまた人が飛び込んできた。
「いつまでぐずぐずしている。早く逃げろ」
 姿を見せたのはエドガーだった。手に携えている剣にはべっとりと血のりがついていた。ギョッとしてセフィーロは二人を見交わす。そこへなだれ込んで来る男達がいた。異国の衣を身にまとった先程の誘拐犯達だった。彼らの手にも長剣が握られている。その中の一人が飛び掛かってくるものを、エドガーは振り上げた剣でたすきがけに切り落とす。飛び散る血しぶき。むせるような血の匂いが、セフィーロの鼻を刺激した。胃から込み上げてくるものを押さえ込もうとした時、手を取られた。
「逃げるよ、セフィーロ」
 ライムがセフィーロの手を引っ張っていた。その手に引きずられるようにしてセフィーロは、隙間のできたドアの外へ飛び出した。
 エドガーの剣の背にかばわれる形で外に出た時、狭い廊下には敵がひしめいていた。すぐそばに見える階下への階段にも敵がいた。そして階段からわずかに立ちのぼってくる煙。これでは逃げるに逃げられない。
 どうすれば良いものかと考えるセフィーロの手をライムが思いっきり引っ張った。
「こっちだ」
 下へ降りられなければ、上へ上がるしかない。そう判断したのか、階上へと通じる階段を選んで、ライムは駆け上がった。その後を追おうとする男を、エドガーが一太刀で床に伏せさせるのが目の端に映った。


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