第 1 話
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「おやおや、ご存じでしたか」
「はんっ、てめぇが一番怪しそうじゃねぇか。税金着服してるって噂もあるしよ。もしかして本当なんじゃねぇのか」
「さあて」
相手はそう言って、くるりとセフィーロに背を向けた。
「おいこらっ、逃げんのかっ?」
「ええ、気の毒ですが王子にはここで黒焦げになっていただきます」
「黒焦げって…」
「大丈夫ですよ。すぐにお父上お母上にも後を追っていただきますから、寂しくないでしょう」
「てめえ」
セフィーロは何とか起き上がろうとした。しかし、いも虫のようなこの体ではどうしようもなく、体をくの字に曲げてみせるのが精一杯だった。そのセフィーロを残して、誘拐犯達はそのまま部屋に鍵をかけて出て行ってしまった。
「ばかやろーっ!」
セフィーロの怒鳴る声も連中には聞こえないようだった。
冷たい床に転がされたままセフィーロはごろりと寝返りを打ち、天井を仰いだ。
目隠しをされてここまで運ばれてきたが、かかった時間からして、城からさして遠くない所であると知れた。どの辺りなのだろうか。
しかし今のセフィーロの位置から見る窓の外は、星空しかなかった。
「くっそーっ」
舌打ちしてセフィーロは窓に背を向けた。
連中は黒焦げになってもらうと言った。ぞっとしない話であるが、十中八九、この建物に火を放つつもりだろう。しかも今すぐにでも。こんな格好で床に転がっている場合ではなかった。が、いかんせん、ロープで縛られていては何ともしようがない。せめて努力くらいはしようと、セフィーロはその格好のままごろごろと床を転がった。
その時、階下がいきなり騒がしくなった。
「何だ」
顔を上げたセフィーロの丁度鼻先に、ドアが開いた。寸でのところでドアで鼻を殴られるのを回避した。が、それもつかの間、ドアから入って来た人物がセフィーロの腹に蹴つまずいてくれた。
「なに?」
どてっと、大きな音をさせながら相手は、セフィーロと同じように床に転がった。
「いってーな、何やってんだっ」
「それはこっちのセリフだ」
振り向いて見た相手は何とライムだった。思いっきり顔面から床に突進していったらしく、気の毒なほど痛がっていた。思わず吹き出すセフィーロ。
「せっかく助けにきてやったのに、笑うことはないだろう」
プイッとライムはそっぽを向き、すねてみせる。その様子がまた笑いを誘う。
「分かった。助けていらないんだな。なら、オレは帰るよ」
ライムはそう言ってさっさと立ち上がると、もと来たドアから出て行こうとする。ようやく自分の立場を思い出したセフィーロは、あわてて待ったをかけた。
* * *