第 1 話

7ページ/14ページ


 城守りの足音も聞こえなくなった夜更け。
 ほんの小さな物音にセフィーロは目を覚ました。緩慢に寝返りを打って、わずかに目を開けてみた。そこに、昼間町で見たと同じ装束の男達がいた。
「何?」
 とっさに跳び起きて、ベッドから降りる。
 ざっと見て五人。一体どこからどうやって入り込んできたものか。月明かりの差し込む部屋で見る男達は、冷たく笑みを浮かべ、無言のままセフィーロに近づいて来た。
 セフィーロはとっさに辺りを見遣る。得物になるものはないかと探すが、何も見当たらなかった。普段から言動が乱暴だからとリオンに言われ、そのテの物はすべて取り上げられてしまうのが常だった。セフィーロは舌打ちして、今度は逃げ道を探す。
 ドアまでは数歩の距離。大声を出して助けを呼ぶにしても、取り敢えず部屋から出る方がいい。思った途端、セフィーロは男達の脇を擦り抜けて駆け出そうとした。が、それよりも一瞬早く、セフィーロの腕をつかむ者がいた。ギョッとして振り返るとそこにもう一人、仲間がいたのだった。
「放せっ、この…!」
 セフィーロは男の腕を蹴りあげる。が、男はその痛みを感じた様子もなく、セフィーロの腕をねじ上げた。
「いてててててっ」
「もう少し静かにしていただけますか、王子。城の者が目を覚ましますがゆえ」
 耳元で囁く男の声に聞き覚えがあった。
「お前  」
 相手は低く笑っていた。


   * * *


「だーっ、放しやがれ、このすっとこどっこいっ!」
 暴れるのは得意技。なので、ロープでぐるぐる巻に縛られ、床に転がされた。
「てめぇら、ふざけてるとただじゃおかねぇからなっ」
 しかしその台詞も、文字どおり手も足もでないこの状態では、いささか迫力に乏しかった。そんなセフィーロを、誘拐犯達は笑って見下ろしていた。
「我々は真剣ですよ、いつだってね」
 その中の一人が歩みでてきた。その声にセフィーロは聞き覚えがあった。
「…おめえ…」
 相手はクククと小さく笑って、ゆっくりと顔を覆う布をとった。そこにはセフィーロにとって見慣れた顔があった。
 それは国の政治を扱う大臣のひとりであった。
 セフィーロは呆れた溜め息をつく。
「やっぱ、てめぇかよ」


次ページ
前ページ