第 1 話

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「おまえら、一体、何やってんだっ?」
 頭上から声がしたかと思ったら、いきなり引きはがされた。取っ組み合いの最中だったセフィーロとライムの二人は、自分達の仲裁に入って来た人物を睨みつける。
「放してください、エドガーさまっ。こいつってば、すっごくいい態度してるんで、それをたたき直してやってるんです」
 やる気満々であるが、どう見ても分が悪そうなのは自分の連れの方だとはエドガーでなくともすぐ分かる。
 最初の一発こそまともにやられてしまったが、元より武道は王族のたしなみと、幼い頃からしこまれてきたセフィーロである。形成逆転もあっという間だった。
 エドガーは、抵抗するライムをとりあえず抑えることに成功した。その様子にセフィーロは、小さく舌打ちしてから顔を背ける。そのセフィーロに怒鳴り散らさないのは、ライムと違ってエドガーの大人である所以だった。
「ここからなら一人で家へ戻れよう。連中は残らず伸してやった。感謝しろよ」
 エドガーはセフィーロにそう言って、暴れようとするライムを背後からはがいじめにした。
 エドガーがここまで無事にたどり着いた所を見ると、彼の言うことも嘘ではないのだろう。それにしてもあの人数をたった一人で倒してしまうなど、相当な剣豪と見受けられた。
「さあ、俺達もそろそろ今日の宿を探さないとな」
「ちぇっ」
 舌打ちしてライムは暴れるのをやめた。そしてチラリとセフィーロに目をやる。目が合うとあからさまにそっぽを向く。初めの笑顔と比べてのその変わり様がおかしくて、セフィーロは自然に笑みがこぼれる。
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
 そう言って背を向けたエドガー達に、セフィーロは思わず声をかけていた。
「宿だったら、オレんちに来ねぇか?」
 何故そう声をかけてしまったのか。その時は、助けてもらった借りはきっちり返しておかなければと、自分に言い訳をしていた。


     * * *


「まあまあ、だから言ったではありませんか」
 城へ帰るなりリオンにつかまり、今日のことを問いただされて答えたところ、思った通りの言葉が返ってきた。
「いいですか、王子。あなたはこの国の王太子、次期国王なんですよ。あなたの身にもしものことがあっては、国の一大事です。もう少し自覚を持っていただかなくてはいけませんねぇ。聞いていますか、王子?」
 少しトーンの高い、それでいてのんびりとした口調でリオンは言葉を綴った。が、セフィーロはそのリオンの言葉の半分も聞いてはいず、いいかげん鬱陶しそうにリオンの言葉を遮る。
「うっせーなぁ。それより部屋の用意をしてくれよ。客人なんだぜ」
「は、はあ…」
 リオンは言われてちらりと旅の二人連れを見遣る。
 セフィーロから聞かされたことには、危ない所を助けてくれた恩人だとか。風体からするに、どこの馬の骨かと言った感じだった。身なりで人を判断するものではないが、時期が時期だけに恩人と言えども信用してしまって良いものかどうかリオンは困った。そのリオンの向こう脛を蹴り飛ばして、セフィーロは怒鳴る。
「ぼーっとしてねぇで早くしろよっ」
「あ、はいはい」
 リオンはセフィーロの乱暴にひるみながら、パタパタと足音をさせて駆けて行った。自分は小間使いではないのにと、小さく呟いて。その言葉が聞こえたのかどうか、リオンの背にセフィーロはもう一度怒鳴る。
「メシも忘れんなよなっ」
「はいーっ」
 返事をしてリオンは奥へと姿を消した。


   * * *



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