第6章
巫女−参−
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佐渡の言葉に、一瞬顔を強ばらせる寛也さん。それを鼻で笑って。
「無理だよな。お前のような甘ちゃんには」
「てめぇはっ」
からかわれたのだと知って掴みかかろうとする寛也さんの腕を取って、杳さんが止める。
「もういい。ヒロも潤也も委員長も、みんな人殺しになんかならなくていいから。オレが封じるから」
「意味ねぇんだよ、杳」
佐渡って人、ふと優しげな声を出す。もしかしてこの人、杳さんのこと…。
「封じても、奴が父竜の元へ帰って報告すりゃ済むことだ。あいつの口を封じない限り、無駄なんだよ」
「でもっ」
「俺にやらせろ。今更、お前を裏切ったりしねぇから」
佐渡の言葉に顔を背ける杳さん。
僕達はそんな彼らの様子をただ見ているだけしかできなくて。僕にできることなんて何もないんだと思い知らされる。
「封じるだけじゃ、ダメなの? 封じて、記憶を消してしまえば…」
「僕達が封じたものは、父竜には簡単に解けるんだ。何をしても駄目なんだよ」
潤也さんが静かに言う。
その時、突然の緊張感が走った。
「つけられたね、佐渡」
潤也さんは短くそう言うが早いか、佐渡を押しのけて玄関から出る。続いて全員、狭い間口から重なるように首を突き出して、そこに立つ見覚えのある人にギョッとした。
それは、夕方杳さんが竜剣で退けた相手――朱雀だった。
「青雀、お前、グルだったか…」
彼の言葉に、舌打ちしたのは誰なのだろうか。
敵に居場所を知られてしまったのだ。ゾクリとしたものが、背を走る。
一瞬戸惑う僕達の中で、一番に動いたのは、やはり潤也さんだった。
「ヒロ、みんなを頼むよ」
言うが早いか、彼を包み込むように透明なシールドのような物が広がるのが見えた。それがあっと言う間に膨らんで、朱雀の身体を包み込む。同時に、潤也さんは朱雀に向けて駆け出していた。
「ちょっと潤也っ」
慌てて追いかけようとする杳さんの腕を掴んで止めるのは寛也さん。その寛也さんを睨み上げる。
「何で止めるんだよっ? ヒロだって、潤也を人殺しにしたくないって…」
「今更、聞くかよ、あいつが」
杳さんよりも寛也さんの方が苦々しい表情だと思った。竜であると同時に、この二人は双子の兄弟なのだ。心配する気持ちも、人一倍だろう。
でも、だからこそ、相手のことを誰よりも良く知っていて、そう言うんだと思う。