第6章
巫女−参−
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 ぞっとしないような事を言うそいつ。杳さんを見ると、形の良い唇を噛み締めていた。

 止めを刺さなかったと言うことは、杳さんの故意なのだ。杳さんは、あの化け物がすぐに回復して追って来るって言っていたから。

「そんなこと、君なら上手く言いくるめてくれるんだろ?」

 潤也さんがそいつに言う。

「できるか、そんなこと。だから杳、俺の封印を解け」

 言ってそいつは杳さんの腕を取ろうとして、横から寛也さんに邪魔される。

「封印を解いたら、今度はお前が杳を襲うだろっ?」

 杳さんを背に庇って言う寛也さんに、そいつはニヤリと笑う。

「ま、それは折りを見てな」
「お前はっ」

 掴みかかろうとする寛也さんを止めたのは、杳さんだった。寛也さんの首根っこを掴んで、後ろへ押しやる。

「ヒロは少し黙ってて。話が先に進まないだろ」

 杳さんの言葉に言い返そうとして口を開けたけど、潤也さんが睨んでいるのに気づいて、おとなしく引き下がる寛也さん。

「それで、封印を解いたらどうするつもり?」
「朱雀を叩きつぶす」

 杳さん達、そろって驚いている。僕だって驚いた。この人、てっきり父竜の使いだと思っていたから。

「つぶすって…殺すってこと?」

 その中で一番に口を開いたのは、杳さんだった。

「ま、そう言うことだ」
「そんなの、させられる訳ないだろっ」
「だったら、この町全部、灰にされてもいいのか? お前の家族だって、そこのそいつらだって、死んじまうんだ。お前、それでいいのか?」

 ギュッと握り締めている拳。そんな辛い選択なんて、させないで欲しい。

 そんな杳さんの肩にポンと手を置いて、言ったのは潤也さん。

「僕がやるよ。佐渡、そいつの所に案内してよ」
「ちょっと潤也っ」
「おい、ジュン」

 杳さんと寛也さんの二人とも振り返る。

「ダメだよ、そんなの」

 潤也さんの腕を取る杳さんの手を、そっと外す潤也さん。

「僕はね、こう言うの、慣れてるから」
「ってお前、いくら朱雀って言っても、そいつ人間だろ?」

 寛也さんも慌てた様子で言う。その横から口を挟むのは、佐渡と呼ばれた人。

「父竜が復活してんだ。殺しても、すぐに生まれ変わる」
「そんなこと言ってんじゃねぇよ。ジュンを人殺しにさせられるかって言ってんだ」
「なら、お前がするか?」


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