第6章
巫女−参−
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「よお、杳。今夜も美人だな」
「何の用?」

 相手の言うことなど無視して、杳さんは機嫌悪そうに聞いた。

 それとなく潤也さんと寛也さんは杳さんをかばっているように見える。それなのに杳さんはそんな二人を押しのけて、前へ出ていく。

 と、その人は平然とした顔で言った。

「愛しのお前に会いに来たに決まってんだろ」
「ふざけるなよっ」

 言うなり、手が出る杳さん。だけどその人は慣れてでもいるかのように、杳さんの平手をさらりと交わしてみせる。

 ニヤリと笑った、嫌な笑みが、いきなり床に転がった。

「あ。ごめーん」

 潤也さんが、その人の足をひっかけていた。

「てめぇらなぁ」

 見上げてきた目が、ふと、僕を見た。ぞっとする色だった。それはあの、今日倒した化け物に通じるものがあった。

 やっぱり、そうなんだ。

 思わず後ずさる僕に、その人は立ち上がって服の埃を払いながら言う。

「勾玉の神子か…」

 ギョッとした。

 今、勾玉は居間に置いたままになっているのに、何で分かるのかと。驚く僕の表情を笑うそいつ。

「図星か。そっちの奴も同じか」

 そう言って碧海を見る。碧海も少し怯んでいるのが分かった。そんな僕達から目を逸らして、潤也さんと寛也さんを見るそいつ。

「成る程な。こいつらを守る為に朱雀をやったって訳か」
「朱雀?」

 潤也さんは驚いて杳さんを見る。杳さんは少しだけバツの悪そうな顔をしていて。

「何で言わなかったのさっ? 僕はてっきり配下クラスかと思って…」
「どっちでも同じじゃない?」
「違うって」

 潤也さん、いろいろと苦労しているんだろうなぁって、つい同情してしまった。

「まあまあ、揉め事は後にしてくれよ。俺だって暇じゃねぇんだ」
「なら、とっとと帰れ」

 寛也さんが言うのに、そいつは肩を竦めただけで返す。

「杳だけなら俺もごまかしてやるが、他の連中までは責任取れねぇぜ」
「それって…」
「朱雀にトドメを刺さなかっただろう? あいつの口から、全部筒抜けになる。勾玉が全て、この辺りに揃ってるってな。下手したら、この町ごと吹っ飛ばされるぜ」


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