第6章
巫女−参−
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「ええーっ、オレ、てっきり潤也さんが天竜王だと思ってた」
碧海が、今更ながら説明してくれた潤也さんに向かって、失礼にも言い放った。まあ、僕もそう思っていたのだから、何も言えないんだけどね。
僕達は取り敢えず、解散した。女の子達はそれぞれの家に帰って――美奈ちゃんはお兄さんの車で、ユリさんは駅までその車に同乗して――行った。
僕と碧海の二人は、結崎家に残ることとなった。碧海は明日、翔くんに送ってもらうらしい。
その翔くんは、杳さんを引っ張って帰ろうとして失敗し、不承不承、一人で帰っていった。一度も僕達と親しく言葉を交わすこともなく。
碧海に言わせると、何だか人が変わったように見えるらしかった。以前はあんな感じではなかったんだとか。
ま、人には色々あるからね。
「竜王は翔くんだよ。僕は風の竜、凪。静川さんは水の竜、瀬緒。それからヒロが…」
「炎竜の戦だ」
潤也さんの言葉を継ぐように言ったのは、いつの間に帰ってきたのか、寛也さんだった。
「あ、お帰り。何食べてきたの?」
「ラーメンとギョーザと炒飯」
「うわっ」
寛也さんが潤也さんに、わざとらしく息を吹きかける。
僕達が洗いざらい食べてしまったカレーライスにありつけず、寛也さんは近所のお店に夕食を食べに出掛けたのだった。
一人じゃつまらないだろうからと、後を付いて行った杳さんは、初めからこうなることを予想でもしていたのかも知れない。だからカレーライスを食べなかったんだろうか。
この二人、さっきは喧嘩していたみたいだったけど、仲がいいんだろうか。
「餃子、一人で5皿なんて、もう恥ずかしくてあそこの店、行けないよ」
呆れたように言う杳さんが、寛也さんの後ろから部屋に入ってきた。
「だって美味かったし」
「言う程じゃないよ。ヒロの舌、腐ってんじゃない?」
杳さんの言葉に寛也さんはムスッとふくれて見せる。杳さんは知らん顔だ。やっぱり仲が悪いのかな。
「で、何の話?」
杳さんは元の場所に座布団を敷いて座り込む。何となく、その場所が気に入っているようだ。
「誰が誰なのかって話です。僕のいた南の宮の守護竜は寛也さんなんですね?」
「え、そうなのか?」
意外にも、寛也さんはキョトンとした顔だ。
「そうなるね。阿蘇が戦のねぐらだったし、赤玉を守っていたのも戦だったしね」
「へぇえ」
潤也さんが言う内容に、感心したように返事をする寛也さん。思わず不審そうな顔をしてしまった僕と碧海に気づいて、寛也さんは苦笑を浮かべた。