第6章
巫女−参−
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 すごくバツが悪そうな杳さんの横顔が見えた。だけど、それは一瞬だけで、すぐにその表情は消える。

「お前…何でこんな所にいるんだっ!?」

 声を大きくするその人に、杳さんはプイッとそっぽを向く。

「別に。オレがどこにいようとヒロに関係ないし」
「お前なぁぁ」

 その「ヒロ」と呼ばれた人は、よくよく見ると潤也さんと同じ顔をしていた。じゃあ、この人がもう一人のここの住人だな。寛也さんと言う名前だって、潤也さんが教えてくれたっけ。

「俺がどんだけ恥ずかしい思いをしたか分かるか? いつの間にかお前、いなくなってるし」
「気持ち良さそうに寝てたから、そっとしておいてやったんじゃない。だいたい、見舞いに来たくせに人のベッドで熟睡って、そっちの方が恥ずかしいだろ」

 一体、何があったんだろう。そう言えば、さっき潤也さんから寛也さんの所在を聞かれたときの杳さんの態度、おかしかったよな。

 尚も言い募ろうとする寛也さんを制したのは、今まで大人しく部屋の隅に座っていた翔くん。

「ヒロ兄、どこに行ってるのかと思ったら、もしかして杳兄さんのベッドに入ってたんですかぁ?」

 ちょっと、形相が怖いんだけど? 翔くんはそれまでの落ち着き払った印象が消えうせ、その身から陽炎のような「気」とでも言うものを立ちのぼらせていた。

「いやぁ、いつもの力、使ったら、眠気に襲われて、つい」
「つい…ですか?」

 だから、怖いよ、翔くん。

 そのままゆっくり立ち上がって。

「なら、もう一度眠らせてさしあげましょうか?」

 次第に濃くなる銀色のオーラ。もしかして、竜王って…。

「それより腹へってー。ジュン、俺メシ食ってねぇんだけど?」

 食事の代わりに、寛也さんは竜王の爆炎を身に受けることとなった。

 ホントに何があったのかな、この人達。

 こう言うのを、触らぬ神にたたり無しって言うんだと、瞬時に張られた潤也さんの結界の中で、黒焦げになった寛也さんを見て思った。





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